研究課題/領域番号 |
17K13522
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
牧田 義也 立命館大学, 政策科学部, 助教 (90727778)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | グローバルヒストリー / トランスナショナルヒストリー / アジア太平洋史 / アメリカ史 / 国際赤十字運動 / 人道主義 / 医療史 |
研究実績の概要 |
本研究は、20世紀前半のアジア太平洋地域における保健衛生制度の形成過程に対して、日本とアメリカ合衆国の人道支援事業が及ぼした影響を、日米両国の赤十字社の活動に焦点を当てて考察するものである。この目的のために、平成30年度は、分析対象期間の赤十字保健衛生事業について、ハワイ・中国・フィリピンでの日米赤十字社の医療活動を事例として、史料を収集し分析を行うとともに、研究成果を論文・学会報告等のかたちで発信した。史料調査については、国内の大学・公文書館・公立図書館等にて関連史料の収集にあたるとともに、フィリピン国立図書館にて未公刊史料や稀少本等の調査・収集を実施した。これらの調査によって、ハワイにおける日米赤十字社による保健衛生事業と両社の協力・競合・対立関係を中心に分析を進めた。また、フィリピンおよび中国におけるアメリカ赤十字社の衛生事業に関する分析を進展させ、両地域での赤十字事業がアジア太平洋地域全体の中で与えられた位置づけについて考察した。さらに、1920年代の国際赤十字運動を通じて形成された人道主義思想が日本赤十字社を通じて日本国内各地の地域社会に還流していく過程を追跡した。研究成果の発信については、9月に日本アメリカ史学会第15回年次大会にて研究報告を行い、方法論的考察を加えるとともに、1月には『人道研究ジャーナル』第8巻にて論文を発表し、第一次世界大戦期のアジア太平洋地域における国際赤十字運動について、人道・帝国・植民地という三つの視点から分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度の研究調査の主眼は、分析対象期間の赤十字保健衛生事業について、(1)中国紅十字会に対する日米赤十字社の干渉と、(2)ハワイ日系移民の管轄権をめぐる日米赤十字社の対立と競合、さらに(3)前年度から引き続きフィリピンにおける赤十字衛生事業の展開について、関連史料を収集し分析を行うことであった。平成30年度はこれらの課題に対して、まず日本赤十字社の関連未公刊文書類およびアメリカ赤十字社関連文書類を基盤として、20世紀初頭の中国における赤十字運動の展開について、国際的な人道主義思想の展開と植民地統治の関係に焦点を当てて考察した。また、ハワイにおける日系移民をめぐる日米赤十字社の競合関係を、主として従軍衛生事業と第一次世界大戦後のアメリカ化運動との関係に着目して明らかにした。さらに、フィリピンにおける赤十字衛生事業については、独立運動との関係からその政治的・社会的背景を考察した。一方で、以上の研究調査を通じて、新たに次のような研究遂行上の課題が生まれた。すなわち、国外植民地・勢力圏における日米赤十字社の活動は、日米両国の国内人道支援事業と密接な関係をもって展開した。こうした国内・国外の人道支援事業の相互連関を明らかにするためには、特定の地域に焦点を当てたミクロな社会史的アプローチが必要となる。この課題に対して、平成30年度は部分的な分析を試みたが、今後さらなる分析を追加して十全な考察を行っていく。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は以下3点にまとめられる。第一に、平成30年度は、前年度の研究調査によって新たに明らかになった諸課題を解決することによって、これまで得られた知見を今後のさらなる史料の収集・分析と有機的に関連づけ、日米両国の赤十字社の協働と対立を中心に進展した20世紀前半のアジア太平洋地域における国際人道支援事業を、国内事業・国外植民地事業を横断する広域的展開として把握し、国境を越えた人道主義思想の循環過程の分析へと発展させていく。第二に、このような史料の大規模な収集活動を効果的に実施し、また収集済み史料の整理・分析の迅速化・効率化を実現するために、史料情報のデータベース化を適宜行っていくとともに、国内外における関連諸分野の研究者と緊密に連携して、研究成果の共有とより効果的な共同・協力関係を構築していく。そして第三に、以上の過程で得られた知見をより洗練させ、分析を精緻化するために、研究成果を逐次、国際会議・学会で発表し、当該研究課題に関する国際的に共有可能な新たな研究プラットフォームを構築していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は、一部当初の予定を繰り上げて複数の論文執筆を行ったため、予定していた国外での史料調査を次年度に持ち越すこととなり、その結果国外調査に計上していた予算が次年度使用額となった。当初予定していた国外での調査は次年度に適宜実施し、必要な史料・情報収集に努めたい。
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