研究課題/領域番号 |
17K13523
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
十川 陽一 慶應義塾大学, 文学部(三田), 准教授 (70738509)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 律令官人制 / 地方社会 / 散位 / 衛府舎人 / 王臣家 / 古代の東北地方 |
研究実績の概要 |
本年度は、前年度までの成果を踏まえ、主に以下の3点について研究報告の実施と論文化を行った。(詳細は、10研究発表欄も参照) ①古代相模国をめぐる官人と文物の移動について、都と東北地方にも目配りしながらの基礎的な考察を行い、厚木市史シンポジウムにて報告した。律令官人制が文物移動のインフラとしての役割を担っていたことなどを指摘した。 ②東北地方の出土文字資料研究に基づく成果として、平安初期の出羽国における豪族支配の在り方を検討し、口頭発表ののち論文化した(5月刊行予定)。国司の容認の下、全国的にも早く富豪層が形成され、国司は彼らを積極的に国内支配に活用し、官人身分へと編成していたことなどを論じた。 ③平安時代の在地有力者の在り方として、9世紀前半に急増する武散位(武官解任の散位)を手掛かりに、衛府舎人への展開や、王臣家の地方進出などと合わせて検討し、口頭発表を行った。官人身分をめぐる在地からのニーズと、国家による支配の妥協点として多様な政策が打ち出された結果、『延喜式』に規定された支配体制が形成されたものと論じた。現在、論文化の仕上げ段階にある。 なおこのほか、一般向け書籍の執筆も行い、官人制研究の概要を社会に広く還元する作業を進めた(6月刊行予定)。 これらの成果により、本研究課題の目的として掲げた、「官人身分が平安時代の地方社会にどのような形で受容され展開したのか」、「日本列島の社会形成に律令国家がいかなる役割を果たしたのか」、「平安時代の地域社会の具体像」(いずれも研究計画調書より)について、かなりの程度見通すことができるようになったと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の通り、研究成果の発表と総括を進めてきており、計画は順調である。ただし新型コロナウィルスの影響により、発表予定であったワークショップが中止となってしまった。このワークショップにおいては、日本古代史研究者はもとより中国史の研究者とも議論を交わし、「支配」という問題について理解を深める予定であった。この機会が失われてしまったことは、本研究課題においても損失であると判断し「(2)おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
執行を延長していただいた一部資金については、上記のワークショップが2020年度に実施されるのであればそちらへの旅費等として使用する。それが叶わない場合には、関連する書籍などの購入によって、「支配」という問題への理解を深めるなど、本研究課題の成果をブラッシュアップしてゆきたい。 なお本研究課題に続いては、東北地方に重点を置いて、官人制と支配の展開について考えてゆきたいと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
2月29日~3月1日に仙台で実施予定のワークショップにおいて研究報告の予定であったが、新型コロナウィルス流行の影響により、中止となった。中止の決定が直前であったため、当該年度内の残額執行は困難と判断され、補助事業期間延長の申請を行い、先日承認されたところである。 ワークショップが実施されればそちらへの旅費への使用を予定しているが、それが困難な見通しとなった場合、関連する書籍などの購入に充てる計画である。
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