2020年度は、研究成果の総括の一貫として、2019年度に実施した研究報告にその後の研究成果を加えた。これによって、8世紀から10世紀初頭にかけて、武散位や衛府舎人・院宮王臣人などの地方に展開した官人身分を素材に、地方へと律令官人制が展開・定着してゆく様相を整理した。地方への官人制拡大にともなって、官人としてより有利なポストである衛府舎人などを中心に、地方における律令官人制への需要も拡大することになる。そうした状況に対して律令国家は、増加する下級官人たちを、中央官制の中で改めて整理し、官人として位置づけながら、律令官人制の枠組み維持が図られていたことを明らかにした。9世紀には律令官人制再編に関する制度変更が散見されるが、以上の成果を踏まえると、それらの再編策はあくまでも社会の現状に対応しつつ官人統制の強化を図ったものであったと評価できる。その後、10世紀初頭になると、地方在住の官人たちは、元々地方にあった者も、中央下級官人も公的に諸国司の下で統制されるようになり、新たな官人統制のシステムへと切り替わってゆくとみられる。 こうした成果を、これまでの研究成果も含めて評価すれば、律令国家は増加し続ける下級官人に対して手をこまねいていたのではなく、ましてや早々に律令国家が崩壊するというような言説も成立しない。官人はあくまでも支配に関わる存在として位置づけられ、律令国家は官人たちを統制し、彼らの存在を前提に全国を支配する姿勢を維持し続けていたと考えられる。 なお、2020年度の成果については、すでに学会誌に投稿、掲載決定となっている(業績欄参照)。
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