本研究では、①旧久留里藩士の諸家文書の解読と内容分析、②東京大学史料編纂所所蔵「森家諸留」四二冊(久留里藩士森勝蔵編)の解読と分析、③久留里藩領村方文書の現地史料調査と内容分析、以上3点を主として実施した。これらの研究作業の実施によって、上総国久留里藩における藩政運営とその担い手について、次のような実態を解明することができた。 (1)近世後期の久留里藩では、18世紀半ば前後に下級の役職に登用された家臣およびその子孫が、代々役勤めを重ねて代官クラスの役職に就くようになり、同藩の民政を主な担い手を構成するようになっていた。(2)彼らは、家伝的に藩政知識を蓄積し活用するとともに、家老クラスまで含めた家臣相互の学問的交友関係を築き、好学藩主黒田直邦以来の伝統を意識しながら受容した学問(儒学)的知識にも依拠して、民政をはじめとする役勤めにあたっていた。(3)幕末維新期には、こうした代官クラスの藩士たちが、民政経験や学識を背景に公議人等に任じられるなど、(家老クラスの藩士らとともに)藩内外に生起した(領内民政以外の)諸課題の担い手となった。以上の知見は、近世日本の藩政理念と運営、政策主体をめぐる研究で手薄になっていた譜代中小藩の実態解明を進展させた点で、学術上小さくない意義を有していると考える。 また、本研究の成果を今後広く利用に供するため、論説編・史料編・目録編からなる研究報告書にまとめ、印刷刊行できたことも(小関悠一郎・上総古文書の会編『久留里藩における藩政運営能力の形成と蓄積』、総ページ数339頁)、本研究の大きな成果である。
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