研究課題/領域番号 |
17K13529
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
貴田 潔 静岡大学, 人文社会科学部, 准教授 (30759064)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 扇状地 / 氾濫平野 / 景観史 / 災害史 / 塩業 / 砂丘 / 砂州 / 中世村落 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、大井川流域をフィールドとして、景観史と災害史を融合的に理解することにある。当該年度もそうした目的に沿って、a.現地調査とb.史料読解をおこなった。 a.現地調査については、現地の灌漑体系の把握を目的として、大井川扇状地を踏査した。本研究では遠江国初倉荘故地を主な対象とするが、用水・排水の現況を目視し、地図上に記録した。特に、大井川右岸の島田市阪本・大柳・大柳南での踏査を重視した。b.史料読解に関しても、昨年度から引き続き、『島田市近世初倉史料』収録の近世史料を読み進めた。 それから、当該年度の研究成果としては、①「筥崎宮と荘園制」、②「筑後国水田荘の開発と「村」の枠組み」、③「中世の駿河湾にみる塩業と森林資源」の3本の論文を発表した。具体的な概要として、まず、①では、筑前国筥崎宮を素材にその荘園制的領有構造の形成を論じた。次に、②では、福岡県の矢部川扇状地に位置した筑後国水田荘の開発と村落構造を論じた。これは、同様に大井川扇状地に位置した遠江国初倉荘の景観形成を理解する上で、重要な比較対象となった。最後に、③では、中世の駿河湾岸の海村で広く塩業が営まれており、さらにそれにともなう燃料の確保のために、森林伐採がおこなわれていたことを指摘した。つまり、人間の生業が中世の環境に大きな影響を与えていたといえる。このことを本研究のフィールド周辺で明らかにできたことは、景観史・災害史の観点からみても重要な成果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現地調査に関して、当該年度は複数回にわたり、フィールドワークを順調に進めることができた。 但し、当初の計画では大井川左岸へと調査範囲を広げる予定だったが、これをおこなうことはできなかった。前年度の調査の遅れとともに、当初の計画で想定していたエリアがやや広大であり、現段階で調査範囲を拡大させることは不適当と判断したからである。そのため、エリアをしぼることで、重点を置いて調査を進めることとなった。 一方で、荘園史・環境史に関する論文3本を発表できたことは、予想を超える大きな成果となった。特に、本研究で比較対象としていた矢部川扇状地の事例において、中世的景観の形成に関する論文を発表できた(上記②)。こうした事例研究の蓄積により、大井川流域を含む一般的な扇状地の景観史を広く、かつ適切に理解していくことが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度もひきつづき、a.現地調査とb.史料読解を進める。 また、本研究では次年度を最終年度として調整期間にあてている。そこで、当該年度までに不十分と判断された事項に関しては、補充の追加調査のため、次年度の時間と予算をそれに充てることを対応策として考えている。 そして、本研究の成果としては、報告書の刊行を目標におく。そのほか、個別論文の発表などによって、景観史と災害史をめぐる研究成果を継続的に公開していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度までの調査で、特に前年度は時間の制約が大きかったことから、聞き書きに伴うデータの収集が不十分であった。そのため、データの整理にかかる経費は、最終的な調整期間としている次年度分として計上・使用することとしたい。
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