本研究の目的は、大井川流域をフィールドとして、景観史と災害史を融合的に理解することにある。当該年度もそうした目的に沿って、a.現地調査とb.史料読解をおこなった。 a.現地調査については、現地の灌漑体系の把握を目的として、大井川扇状地を踏査した。本研究では遠江国初倉荘故地を主な対象とするが、用水・排水の現況を目視し、地図上に記録した。特に、当該年度は大井川左岸のエリアを踏査した。b.史料読解に関しても、一昨年度・昨年度から引き続き、『島田市近世初倉史料』収録の近世史料を読み進めた。 それから、景観史と災害史の融合を目指す本研究に関連して、富士山南麓の精進川地区(現静岡県富士宮市)での調査もおこなった。こちらは第57回中世史サマーセミナー(事務局住所:静岡大学人文社会科学部貴田潔研究室)の開催に先立った現地調査であったが、稲作のみに依拠しない農村のフィールドワークとなった。同地区の土壌は火山性の黒ボク土を主としており、また丘陵上の用水源も限られたものであった。前近代の社会において稲作に適した環境とは必ずしもいえない。 そして、同地区周辺の中近世史料からは、稲作(米)だけでなく、畠作(定畠・焼畑、大豆・柿)、林業(建築材・燃料)、採集(カワノリ)など多様な生業に従事していた人びとの姿が見えてきた。このように稲作のみに頼らない生業の多様化は、噴火・干魃の災害が想定される村落でのリスクの分散としても評価できよう。 こうした聞き取りを含む調査の事例の蓄積は、今後の研究に引き継ぎたい。そして、景観史研究の手法・議論を水田の稲作のみに限定させるのでなく、災害を恐れた人びとの多様な生業へと視野を広げていきたい。
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