最終年度となる2019年度は、研究課題A「八木亀三郎関係資料からみる近代愛媛の地域像」、B「明治中期のロシア貿易構想と地域社会」、C「近代日本の北洋漁業構想とナショナリズム」について、A~C全般に関わる資料収集と、総括となる研究成果をまとめた。 すでに昨年度の研究実績概要で述べたように、本研究の進展に伴い八木亀三郎の活動が広く 1870年代から90年代の瀬戸内塩業者による中国、朝鮮、ロシア沿海州への経済的進出のなかに位置づくことが明らかとなった。そのため本年度は、当該期の瀬戸内塩業者のアジア進出を促す要因となった対外認識を、食塩というモノに対する評価から考察することで、昨年度の研究成果を補完、発展させることに努めた。 その際には、八木亀三郎を含む瀬戸内塩業者による食塩の直輸出運動の実態を検討すべく、岡山県児島郡味野村(現倉敷市児島)の野﨑武吉郎の旧蔵資料(現在は同地の野﨑家塩業歴史館に収蔵)を積極的に利用した。本研究の特徴は、八木や野﨑という瀬戸内塩業者に焦点をあて、「地域像」「貿易構想」「ナショナリズム」といった思想史的諸課題を検討した点に求められる。 本年度の研究成果は「日清戦前の朝鮮経験と対外観形成:在朝日本人・地域社会・居留地メディア」(『アジア民衆史研究』第24号、2019年)、「明治期の食塩輸出論と中国・朝鮮認識」(『愛媛大学法文学部論集人文学編』第48号、2019年)として公刊した。また各種学会や講演会等において発表することで、学界および社会への還元を行った。 さらに本年度の研究成果として、2020年度には論文「明治中期の海外市場情報と中国・朝鮮認識:「粗製」認識とその作用」(『メディア史研究』第48号、査読付、2020年刊行予定)が刊行される。
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