研究課題/領域番号 |
17K13533
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
三ツ松 誠 佐賀大学, 地域学歴史文化研究センター, 講師 (10712565)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 日本史 / 宗教史 / 国学 |
研究実績の概要 |
西川須賀雄は、19世紀日本の神道を軸にした宗教改革の数々の局面(長崎キリシタンの弾圧、教部省による国民教化、出羽三山における廃仏毀釈、富士講の教派神道化、等々)において、その最前線に立って活躍した国学者であり、彼が日本の宗教文化に残した爪痕の深さには看過できないものがある。しかし、明治国家が結局、彼の意図に反して曲がりなりにも政教分離の立場を採ったこともあって、神道国教化の妥協なき推進者たる彼は時代の徒花のような扱いを受け、その足跡は半ば忘れられかけている。本研究は、全国に散在する彼の関係史料を徹底的に調査・収集することを通じて、彼の足跡を通観できるようにして、停滞しつつある初期「国家神道」研究の再活性化を目指すものである。 先年、近代日本宗教史についての講座刊行企画が持ち上がり、研究代表者もその分担執筆者となった。具体的な担当個所は、近代神道の形成過程を説明する所になる。これは西川須賀雄の足跡を通観することで初期「国家神道」研究の再活性化を目指す本研究にとっては恰好の機会である。そこで今年度は、西川須賀雄関係史料の調査を実施する一方で、須賀雄の活動の歴史的意義を発信することを大きな課題にした。具体的には、当該講座論文の作成に力を入れ、西川須賀雄の視点から平田国学の普及と神道国教化政策の展開から頓挫、神社神道と教派神道の分離・形成といった歴史過程の描出に努めた。あわせて文献調査や研究成果を学会で発表することに努めた。その過程で履歴・年譜的検討も進捗を見た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上述の講座論文は提出済みである(講座論文故、直ぐに公表とはいかず、公刊は新年度の予定であり、今年度業績一覧には挙げていない)。また、これまでの研究成果の公表も軌道に乗り始めており、昨年度までの史料調査・研究・学会発表を踏まえ、学術雑誌において議論を公刊することが複数回できた。 また、長崎県島原市の国学者関係史料(新政府の長崎キリシタン対策に従事した有力な平田門人である丸山作楽およびその弟子の関係史料・研究資料)や千葉県文書館の国学者関係史料(伊予の神道家三輪田三兄弟の次兄高房の関係史料)を調査して、当該期のキリスト教対策・宗教行政に関する理解を深めることができた。また、佐賀県立図書館所蔵史料から須賀雄やその師南里有隣を含む国学者が藩内でどのような文化活動をしていたのかを示す資料を知り、調査した。 今年度は研究成果の公表という面で大きな進展が見られ、史料調査の面でも一定の進捗があったと言える。 問題は、追加の千葉県文書館での調査や出羽三山での情報収集、実行教伊那連についての新規公開史料調査が、新型コロナウィルスの蔓延によって中止されたことである。現時点では調査再開の目途が立っておらず、須賀雄関係史料の総体を把握した研究の総まとめをすることに大きな困難が立ちはだかっている。
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今後の研究の推進方策 |
新年度は研究の最終年度の予定である。当初の予定通り、これまでの史料調査の成果に基づき、須賀雄の思想を示すテクスト類の具体的な分析を進める。彼の思想的系譜と彼の著作や宗教的実践とを関連付け、平田篤胤の影響を受けた国学思想が明治期にどう展開したのか、の新しい事例を学界に提示する。これによって近年では反時代的、失敗が当然と看做されがちだった神道国教化政策について、あらためて推進者の視点からその広がりと後世への影響を展望し、所謂「国家神道」研究、あるいは明治前期の宗教と国家をめぐる研究に、一石を投じることを目指す。 他方、新型コロナウィルスの蔓延に伴い、史料調査に行けない日々が続いており、西川須賀雄関係資料目録の完成が難しい状況にある。とは言え、状況の好転があり次第、予定がありながら未だ実地調査が叶っていなかった史料群についての調査を実施して、須賀雄の思想・実践分析にその成果を反映させられるように準備しておくことにする。
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