研究課題/領域番号 |
17K13537
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
町田 祐一 日本大学, 生産工学部, 講師 (00546260)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 日本近現代史 / 労働行政史 / 地方史 |
研究実績の概要 |
本年度は国家総動員体制下の職業紹介行政の実態解明を課題として、京丹後市教育委員会所蔵の木津村役場関係文書、千葉県立公文書所蔵の千葉県旧源村役場文書を調査の史料収集・分析を行った。 前者は、公開されている総目録件数931件のうち1937~45年の文書群を析出し、悉皆調査を行い、③173:昭和14 職業紹介、④181:昭和14~昭和15 軍事援護・方面事業・労務動員・軍需供出、⑤189:昭和15~16 国民体力法・防空・海軍・警防・労務動員・金属類回収、⑥190:昭和16 職業紹介などの文書群、さらに当該時期の行政情報が網羅されている『網野町報』も閲覧複写した。これらは職業指導所体制に移行する前後の重要な行政文書が網羅されており戦時期の様子を知るためには最適であり、これまでの仮説である、職業紹介所・職業指導所の直面した労務動員上の限界、困難さをかなり裏付けることができる興味深い史料であった。 後者は、千葉県内の職業紹介所関係史料を確認できたほか、膨大な量の会社求人、軍求人を把握することができた。これらの求人群に関しては条件・属性・推薦方式を一覧に整理して多角的な分析を行う予定であるが、現時点では、紹介所推薦から徴用身元者へと移行した中で膨大な軍需工場などの求人に応対していたこと、ただし一方では紹介者や徴用者については、不採用や一時帰農者もいるなど、必ずしも適合していない現実も垣間見られた。 ここから、国家総動員体制下の職業紹介行政が、多くの負担に直面しながら戦時体制へ移行し、実際には対応しきれない側面が多く存在しながら展開されていたことを、村役場の視点から解明することができるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
予定していた資料収集を行い、これまでの成果と突き合わせる作業を行うことができた。ただし調査データが膨大な量に達しており、綿密な整理作業を完全に遂行するには至らず、結果論文投稿にはいたらなかった点でやや遅れが見られている。以下、現在までの達成度につき、研究計画・方法と比較しながらまとめる。 平成30年度に予定していた京丹後市教育委員会所蔵の木津村役場関係文書、千葉県立公文書館の旧源村役場文書の調査は終了した。前者は平成30年度日本大学生産工学部学術講演会にて研究報告を行った。後者は膨大な量の求人情報などは半分整理終了しており、今後、残り半分につき整理を行い、分析を行う予定である。 両文書群の内容から共通してうかがえる当該時期の職業紹介所・職業指導所の特質で重要な点は、一村に対する労務動員の負担が想像以上に重くのしかかっており、しばしば紹介所では求人に対して該当者が皆無であることも県や府へ報告されていた。さらに農業生産にかかわる農繁期には一時帰農を許可する文書が少なからず残されており、徴用者に対する負担軽減も行政側は検討する措置を行っていた。ここから、戦争の長期化とともに職業紹介行政が現実には様々な課題の中で戦時動員が進行し、職業紹介所・職業指導所関係者が調整にあたっていたことがわかった。これは労働現場ではその後表面化する徴用者の「不良化」や、待遇改善を促す政策が行われていく背景でもあったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成31年度の研究計画は、職業指導所~勤労動員署への組織再編及び事務内容の展開過程がわかる文書郡として、アジア・太平洋戦争中における労務動員の実態が解明できる、鳥取県公文書館所蔵の「旧大山村役場資料」を悉皆調査する。簿冊『昭和19年労務動態関係綴』における「国民登録指導員必携」という職員のマニュアルなど、1944年頃の動員の実態を解明する貴重な史料を分析する。あわせて、斯業職員の機関紙・同人誌である『職業紹介』などの近年復刻された史料と戦後関係者で結成された同人誌を分析する。戦時下の動員業務に関する言説分析を通じて、業務遂行に対する意識の変化を分析する予定である。 具体的な課題としては、第一に、前年度分の史料分析を進めることで職業行政の展開過程の動向を完全に復元すること、第二に、本年度調査予定の鳥取県の文書群を悉皆調査して村役場レベルでの職業紹介事業の展開を確認すること、第三に、勤労動員署への編成に伴う業務内容の変質、当時の労働状況についての職員の対応状況が分かる史料調査及び分析を進めていくことである。 以上の調査に基づく研究報告・論文発表の予定として、第一の点は年度内に報告する予定である。第二の点は夏季休暇以降に調査を実施する予定である。第三の点は、関連する先行研究についての研究会報告を実施予定である。その他、これまでの研究蓄積は適宜論文化しており、当該年度内に多く発表できるよう努めていく所存である。
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