12世紀中葉~後半にかけて、平家一門によって形成された平家領の多くは、平家の没落後に「平家没官領」として朝廷から源頼朝に給付され、鎌倉幕府が支配する関東御領となった。本研究は、この所領群について、Ⅰ期:平安後期の平家領段階、Ⅱ期:治承・寿永内乱期の平家没官領段階、Ⅲ期:鎌倉前期に関東御領として整備される段階、Ⅳ期:鎌倉中・後期の関東御領、の4段階に区分して分析を加え、その展開過程の段階的特徴について実態的に把握することを目的とする。 事業期間を一年延長した本年度は、これまで収集したデータを整理した結果を踏まえ、陸奥国好島荘を中心に検討し、研究成果の発表を進めた。未発表の論文については、事業終了後も継続して成果の公開に努めたい。なお、コロナ禍のため史料所蔵機関への出張調査や現地調査は前年度に続き実施できなかった。 前年度に発表した「鎌倉期の荘園制と複合的荘域」(『日本史研究』703号)では、領域型荘園における荘園領主による領域支配は、複合的荘域構成のままに収納業務が一元化されることで実質化するとの見通しを提示した。そこで今年度は、関東御領陸奥国好島荘を検討し、鎌倉幕府(預所伊賀氏)による領域支配の展開を跡づけた。その結果、預所による支配は通説が論じた地頭(在来領主)支配を必ずしも排除するものではなく、地頭らの在地における社会的機能に依拠しながら、「関東御年貢」や飯野八幡宮造営役などの収取を一元化することで実現していた様相が具体化できた。 以上、本年度は、預所支配に関する通説的見解を見直しながら、関東御領を鎌倉期荘園制の展開過程に位置づけることを試みた。
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