本年度は、中世寺院における史料管理の様相について、東寺執行家の事例を中心に検討を行った。 「室町期における東寺と東寺執行家について」(国際日本文化研究センター共同研究、2020年)、続編となる「阿刀家伝世資料からみた中世東寺の執行職」(オンライン公開研究会「中世寺社記録からの探究」(基盤研究A「日本中近世寺社〈記録〉論の構築―日本の日記文化の多様性の探究とその研究資源化」(研究代表者:遠藤基郎)、2021年)において、本研究課題が対象に据える東寺における史料管理の様相について、執行阿刀家の職務と史料の集積のありかたを明らかにすることを研究目的とした。執行阿刀家の史料群のうち記録類はいまだ全貌が明らかになっておらず、また『東寺執行日記』などに活字史料がないために十分な検討がなされていると言い難い。こうした史料の研究資源化を行うための前提として、史料群の全貌を把握しようと試みた。今後、『東寺執行日記』や京都国立博物館蔵の阿刀家資料(典籍)などを活用することで、分析をすすめていきたい。
また、中世寺院に集積された史料と情報について、聖教史料における歴史叙述の一事例として、「歴史学からみた「千字文説草」」(『仏教文学』45、2020年)をまとめた。本論では、中世寺院に集積された聖教のうち、教化の過程で用いられる説草を取り上げ、仏教説話類を歴史学の俎上にのぼせた。
今後、寺院史料における情報集積のありようについて、そのアーカイブズの様相と寺院組織の関係の究明を射程に捉えつつ、論考をまとめていきたい。
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