研究課題/領域番号 |
17K13544
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良国立博物館 |
研究代表者 |
斎木 涼子 独立行政法人国立文化財機構奈良国立博物館, その他部局等, 主任研究員 (90530634)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 聖教 / 真言宗 / 密教 / 修法 / 仏教史 / 平安時代 |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、平安時代以降代表的な護国修法となった太元帥法について、平安時代から鎌倉時代にかけての史料の検討を進めた。太元帥法は、平安時代初めに入唐した常暁によって請来された密教修法で、護国仏事として毎年正月に行われた有名な修法であるが、9世紀に年中行事化されて以降、中世に至るまで、どのように伝授されていたのかという点については、余り取り上げられることがなかった。しかし史料を確認すると、平安時代の太元帥法の相伝には、いくつかの重要な転換点があったことが判明した。 太元帥法は、本来、悪賊・疾病・天災など様々な災いに効験のある修法だったが、他の修法と差別化をはかるため、常暁の弟子が効験を兵乱鎮圧に絞ったことで、特別な修法として朝廷に重んじられるようになった。元々は、常暁が拠点とした法琳寺に所属する僧のみが伝習し、修法を行う「太元帥法阿闍梨」になるには、先師から秘説を授けられた正統な伝受者であることが重要であった。しかし、限られた範囲で伝習されるなかで、不適切な人物が就任するなど、阿闍梨の人選に問題が発生する。その結果、真言宗小野流の祖とされる仁海が太元帥法を伝授していたことを理由に、真言宗内にその資格が拡大した。太元帥法は法琳寺から離れ、真言宗の修法となり、東寺長者や仁和寺法親王などが適任者を選考することになった。 さらに院政期には、院(上皇)が人選に介入し、太元帥法の威力を正しく発揮できる験力を持ち合わせているかも問われた。護国修法の伝授は、寺院社会の変化や権力者の意図、需要などの影響を強く受けていたのである。以上の研究成果を、論文として発表した。 また、真言宗の重要史料である仁海著『灌頂御願記』と、仁海の弟子である成尊著『真言付法纂要抄』について、記述内容の分析を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウィルス感染症緊急事態宣言により、史料調査のための出張等が中止・延期されたため。
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今後の研究の推進方策 |
国立公文書館などの公的機関が所蔵する真言密教聖教のうち、従来内容研究が不十分なものの調査・研究を行う。 また真言宗の重要史料である仁海著『灌頂御願記』と、仁海の弟子である成尊著『真言付法纂要抄』について、昨年度に引き続き記述内容の分析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の流行およびそれにともなう緊急事態宣言等により、予定していた史料調査、出張等が中止となったため。
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