研究課題/領域番号 |
17K13546
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高橋 亨 東北大学, 文学研究科, 専門研究員 (20712219)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 明朝 / 地理書 / 内閣制度 |
研究実績の概要 |
本研究では、明朝中国とモンゴル勢力とのパワーバランスの推移を、明代中国人がいかに認識し、それが彼らの境域意識に与えた影響を考察する。その上で、内閣制度の変遷に着目し、上記の認識の変化が明代中央政治制度にいかなる影響を及ぼしたのかを把握することを目指している。 平成29年度は「研究計画・方法」に記した「a.地理書・地方志」に該当し、明代中国人の境域意識を窺うことのできる史料として、『大明一統志』を精読した。この史料は、明朝がオイラートに敗北した土木の変の直後に編纂の直接的契機を見出し得る。当該史料の分析に当たっては、ほぼ同時期に編纂が始まった年代記『続資治通鑑綱目』の編纂過程と合わせて検討を行った。その結果、これらの編纂過程には、明朝がモンゴル方面に影響力を及ぼすことが困難となり、中華に逼塞していく情勢が反映されていることを把握した。その成果については、2017年10月に東北大学(仙台市)で行われた2017年度 東北史学会 東洋史部会において、「『大明一統志』『續資治通鑑綱目』の編纂について」と題して発表を行った。 加えて、「研究計画・方法」に示した「b.官僚の個人文集・奏議・政書類」に該当する研究資料として、東北大学が所蔵する大型叢書に収められた明代史料を精査した。その結果、本研究が主な研究の対象とする内閣制度の変遷について、一定の知見を獲得した。現在、特に15世紀半ばに確立された皇太子の育成に関する制度に注目し、それが明代内閣の管掌事項となった経過を分析した結果を論文にまとめている。この論文では、明代中期における内閣の性質を把握し、元来内閣が当時の政治体制において負っていた職責の意義が明らかになる。この論文は平成30年6月に世に出る予定である。 なお、当該年度は主として関東圏の研究機関・史料収蔵施設に赴き、関連史料を調査したことで、研究推進に資する情報の蓄積を増しつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度中に予定していた資料調査は、ほぼ順調に進展しており、上記のような成果にまとめることができた。学会発表を行った『大明一統志』に関する調査結果も研究期間中に論文化する所存である。 ただ、例えば東北大学で閲覧が可能な明代史料についても、いまだ精査が完了していないものが多数残っている。また、関東圏の施設についても、今年度中に調査が及ばなかった場所がある。 それゆえ、研究目的に即した調査はまだ端緒についたばかりと言える。したがって、平成30年度は当初計画していた海外調査と合わせて、より史料収集を進展させることを期したい。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように、平成29年度は自身が所属する東北大学での調査を中心として、国内関東圏で調査を実施した。現在、未調査の史料の収集・精読を進めつつ、今年度以降は国外の研究機関へも調査に赴く予定である。 主として北京・天津といった北中国へ赴く予定であり、過去に留学した南開大学(天津市)の教授・知己と連絡をとり、史料調査を円滑に進めるための環境整備に着手しつつある。また、連絡を行った際、同大学にて自身の研究成果について発表を行うよう促された。この機会を利用し、中国訪問までに到達できた成果を現地の研究者に問う所存である。 無論、平成29年度中に得た成果や今後得られるであろう知見については、適宜論文にまとめ広く公開していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在、非常勤講師の職を得ているが、当初の予想以上にその職務が多忙となったため、幾度かに分けて史料調査に赴くこととなった。そのため、上記のとおり、旅費については当初計画していた使用額を超過している。 一方、有用と判断された史料については、複写を依頼することを念頭に置き、調査費用を計上していた。ただ、平成29年度に赴くことができた研究機関・史料収蔵施設では、写真撮影が許されており、史料収集に要する費用が大幅に少なくなった。その結果、全体的には余剰額を生じることとなった。 余剰額については平成30年度における調査費用として用いる所存である。
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