今年度は、当初は昨前年度に実施する予定であった中華人民共和国での史料調査、ならびに研究発表を遂行した。令和2年12月に天津市に赴き、まず南開大学歴史学院において「明代正正統――天順年間内閣官職掌的形成」と題する発表を行った。自身の過去の研究成果と、本研究費を用いて進めてきた調査の結果を踏まえた内容であり、その場に参加していた現地の研究者より高評価を得た。その後、天津図書館歴史の文献閲覧区にて史料調査を行った。その結果、当館が所蔵している明代正徳(1506~1521)・嘉靖(1522~1566)年間における行政案件処理のプロセスや、万暦(1572~1620)年間に翰林院の臣僚を育成するカリキュラムの実態を窺わせる史料を閲覧・調査できた。翰林院は文教系官僚を擁し、明代内閣の臣僚の母体となった機構である。本研究の眼目の一つは、明代内閣の臣僚に求められた資質の変化と、内閣に入るまでのキャリアコースの実態の究明にある。したがって、この史料調査によって得られた知見は非常に有益であり、研究の進展に大いに資するところがある。 上記の史料調査を計画・実施する一方で、前年度までと同様に「研究方法・計画」に記した「a地理書・地方志」「b官僚の個人文集・奏議・政書類」について、国内の研究機関での調査や購入という手段を用いて、それらの精査をさらに進めた。その結果、北方世界に対する影響力の伸縮が明朝の政治制度に与えた影響の把握という、もう一方の研究目的についても進展させることができた。その成果については、さしあたり景泰(1449~1457)から天順(1457~1464)にかけての情勢についてまとめた論文の公表を準備しているところである。
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