研究課題/領域番号 |
17K13547
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
岩本 佳子 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 研究員 (90736779)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | オスマン朝 / 遊牧民 / テュルクメン / クルド / 定住化 / ワクフ |
研究実績の概要 |
17 世紀末から18 世紀初頭にかけて、オスマン帝国/オスマン朝(ca. 1300-1922)で行われたテュルク、クルド系遊牧民に対するシリア北部への定住化政策の分析および解明が、本研究の研究対象および目標である。 特に、国庫ではなく、帝都イスタンブルのウスキュダル地区のワクフ(イスラーム法に基づく信託制度)に租税を払うという特殊な税制上の扱いを受けていたクルド、テュルクメン系遊牧民諸集団の、上記の定住化政策における扱いに着目して、本定住化政策が、当時のオスマン朝やアナトリア、シリア地域の自然環境や社会に与えた影響を解明する。 これを通じて、混迷を深めるシリア情勢を中心とした現代の中東および世界情勢や、近代期に「民族」とみなされるに至る多文化・多言語・多宗派の社会が、中東地域に歴史的にいかにして形成されてきたかの一端を明らかにし、現代の諸問題を解決するための考察材料を提供、用意することを目指す。 本研究では行財政に関するオスマン語で書かれた、主にワクフに関する、税や土地の割り当てを記した財務・税務関係の帳簿類、勅令や命令、嘆願や嘆願に対する返答を記した行政文書類を主要史料として用いる。そのために、アンカラのワクフ総局附属図書館文書館と、その他の研究施設で、例年1-1.5 ヶ月程度の史料調査を行うという当初の研究計画に基づき、本年度は、アンカラで本研究課題に関する史料調査を、2週間程度かけて行った。その際に、調査、蒐集した史料の分析および関連する研究成果の精読を現在進めている。 また、本研究と連関する研究成果を、第33回日本中東学会年次大会での研究発表、日本イスラム協会発行の学会誌『イスラム世界』への投稿論文の形式で、公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、研究計画に基づき、トルコ共和国アンカラのワクフ総局図書館附属文書館、共和国文書館といった研究施設で2週間の史料調査を行った。史料調査により、上記の研究施設に所蔵されているムカーター台帳、ワクフ台帳、定住化命令集成台帳といった財務行政や徴税に関するオスマン語文書・帳簿、枢機勅令簿、嘆願書集成台帳、ワクフ局発給命令台帳といった遊牧民の定住化令や定住化に関して現地から中央政府へ寄せられた嘆願を記録した文書・帳簿類 を蒐集および分析した。それらの分析と精読を現在は進めており、その内容に関するデータベースの作成と構築を進めている。 研究成果の公表については、本科研に関連する研究成果を、第33回日本中東学会年次大会にて口頭発表の形式で発表した。また、日本イスラム協会発行の学会誌『イスラム世界』に、上記のオスマン語文書・帳簿に見られる君主呼称に関する論文を発表した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画において、第二年度にあたる本年度は、初年度に調査を行ったアンカラ市内の研究施設に、地券・地籍簿総局文書館 を調査施設に加え、夏季に2週間程度の史料調査を行い、蒐集した史料の整理と収集、分析を進める。特に、地券・地籍簿総局文書館に収蔵される租税台帳やワクフ台帳は、16 世紀末に作成された後も数世紀にわたって追記や命令書の差し込みが行われたために、17 や18 世紀の研究の上でも重要な価値を有している。本年度は、これらの史料を積極的に活用する。この他、前年度の調査でアクセスできなかった史料や新たに閲覧が必要となった史料の閲覧も進める。 また、年度内に、「日本学術振興会海外特別研究員」制度を活用して、トルコ共和国アンカラのビルケント大学文学部で在外研究を開始し、上記制度の研究課題と大きく連関する、本科研費研究課題の史料調査および分析をさらに進める。 研究成果の公表については、10月にアルバニア、ティラナ市で開催される第2回国際オスマン学会(2nd INTERNATIONAL CONGRESS OF OTTOMAN STUDIES)など、国内外の学会で口頭発表の形式で公表する。合わせて、研究成果を論文の形式で公表することに努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、書籍の購入にかかる費用が円高トルコリラ安により当初の想定以上に圧縮できたため、次年度への繰越額が発生した。 次年度は、国際学会への参加などで学会費、英文校閲費が予算計画時の想定よりも増えることが予想されるため、上記繰越額は、主にその充填に活用する予定である。
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