本年度は当初の研究計画と昨年度の進捗状況を踏まえつつ、史料調査ならびに史料分析、論文執筆に取り組んでいった。海外では北京の第一歴史档案館、台北の故宮博物院図書文献館、国内では東京大学東洋文化研究所、東洋文庫等を中心としてそれぞれ史料調査を実施し、いずれも一定の成果があった。清朝の救貧政策や慈善事業への対応に関する行政文書を収集できただけではなく、本研究テーマに関わる清代の漢籍を発見できたことも成果の一つである。これらの史料については、来年度に本格的に分析し、考察のなかに組み込んでいきたい。また本年度は、「嘉慶・道光期の北京における救貧体制と流民問題」(『東洋学報』第100巻第3号)を発表することができた。この論文は、嘉慶年間・道光年間を中心に、清朝の首都であった北京でどのような救貧体制が形成されていたのかを、清朝中央の救貧政策、普済堂・功徳林・育嬰堂といった各種の慈善事業の活動、遺体回収事業である陸慈航の実態、流民の収容施設である棲流所の経費の変遷、清末における粥の炊き出しの拡大といった論点に着目し、行政文書や日記史料、宣教師の記録を用いて実証的に議論したものである。論文中では嘉慶帝による一連の政治改革の一部として、救貧政策を位置づけた。この嘉慶帝の政治改革については、これまで国内外の研究者との共同研究を進めてきたが、今年度の研究実績は、共同研究を発展させていく上でも有意味なものであった。
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