研究課題/領域番号 |
17K13549
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山本 孟 京都大学, 文学研究科, 教務補佐員 (90793381)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ヒッタイト王国 / 支配 / 境界 / ヒッタイト語 / 古代オリエント |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、紀元前2千年紀のアナトリアに栄えたヒッタイト王国による支配が及んだ領域とその歴史的変遷を明らかにすることである。平成29年度は、ヒッタイト語楔形文字文書に現れる「支配すること」と、「境界」を意味する語の用例を分析し、支配領域に対するヒッタイト側の認識を理解することを目指した。ヒッタイト文書において、これらの語がアナトリア中央の本国とそれ以外の地域に対して使われる際の違いを確認した。また、ヒッタイト王国の属国となっていたアナトリア西部に残る象形文字ルウィ語碑文を調査し、資料収集を開始した。 上の研究で得られた結果を基に、(1)第10 回国際ヒッタイト学会で“The Imposition of Legal Bonds and Matrimonial Ties by Hittite Kings”を、(2) 日本オリエント学会第59回大会で「ヒッタイトの支配領域と境界について」を口頭発表した。また(2)の成果を基に、(3) 同志社大学で開かれたWorkshop on Ancient Near Eastern Royal Ideologyで “The Concept of the Territory and the Definition of Borders by the Hittites from the perspective of the royal ideologyを口頭発表した。(1)ではヒッタイトの支配政策の理念をまとめ、(2)では「支配」と「境界」を意味する語の用例から、ヒッタイト側が直接支配していると認識していた地域がアナトリア中央にとどまらず、アナトリア南部およびシリア北部に及ぶことを明らかにした。また、(3)ではシリアにおいては一定の地域から南が国外と認識されていた可能性を指摘した。なお、(3)の報告は論文集として出版される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、ヒッタイトの支配が及んだ領域を理解する前提として、支配領域とその境界についてのヒッタイト側の認識を理解することを目指した。当初、本年度はアナトリアの4つの地域に分けて中央政府の支配を考察することを想定していたが、本研究を進めるにあたっては、まずは中央政府の自国領土に対する認識を理解することが必要と判断した。この研究に用いた「支配する」という意味のヒッタイト語動詞と、「境界」を意味する名詞の使用例は200例以上あり、各文書の読解に想定していた以上の時間が費やされた。本研究を開始するにあたっての前提となる研究に大幅な時間が費やされたことが、本研究が「やや遅れている」理由である。ただし、今後の研究対象とする史料は特定しており、本年度に行った研究を基礎に来年度はスピードアップが見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、地方の行政および宗教にかかわるヒッタイト語文書(約30点)の読解を行う。年代を古王国時代・中王国時代・新王国時代に区分し、地域をアナトリア中央・北部・南部・西部に分けて各内容を比較する。宗教行政における中央政府の地方に対するアプローチを時代別・地域別に整理してアナトリア全域におけるヒッタイト王国の支配の実態とその変遷について考察する。この作業にあたっては、(1)シリアにおいてヒッタイトの境界に対する認識が変化していた可能性があるという前年度の成果を踏まえ、特にシリアの属国に対する支配のあり方に注目する。(2)同時に、前年度に十分研究できなかったアナトリア西部と南部の支配実態の考察に重点を置く。その際には、アナトリア南部および可能であれば南東部に残る碑文資料の現地調査を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に予定していた研究成果を掲載するホームページの作成に着手できなかったため、それに必要な経費を使用しなかった。
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