研究実績の概要 |
本研究は、紀元前2千年紀のアナトリアに栄えたヒッタイト王国による支配が及んだ領域とその歴史的変遷を明らかにすることを目的とする。令和1年度は、これまでの研究成果をまとめ、楔形文字ヒッタイト語文書と象形文字ルウィ語碑文から本国と従属国の境界についての研究を行った。 前年度までに実施したヒッタイト語文書に見られる「支配」と「境界」を意味する語の用例の分析により、特に「支配する」という語は王家が本国とみなす限られた地域にしか使用されないことがわかった。これに従えば、ヒッタイト王国最盛期には、南北は黒海からアナトリア中央、地中海に至る地域を、南東ではユーフラテス川に至る地域までを本国と考えていたのだと理解された。この点については、Hajime Yamamoto, “The Concept of Territories and Borders in Hittite Royal Ideology,” Orient vol. 55, pp.29-41, 2020にて発表した。また、アナトリア各地に残る象形文字ルウィ語碑文の内容と建造者、モニュメントの立地状況などから、ヒッタイトは、元来、本国の「外」であったエーゲ海地域をも本国に取り込もうとした一方、南部は王国末期には本国から離反する動きが加速していたことが確かめられた(山本孟「ヒッタイト王国時代の象形文字碑文についてのトルコ現地調査」『一神教学際研究』15、pp.51-61、 2020年)。なお、本研究の成果の一部と象形文字ルウィ語碑文とそのモニュメントの写真資料などについては、個人のウェブサイトを開設して公開している(山本孟「ヒッタイトの世界」https://hittiteanejphy.com/)。
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