本研究の目的は、紀元前2千年紀ヒッタイトによるアナトリア支配の実態と王国の境界を解明することである。この目的を達成するために、アナトリアを4つの地域(中央部・北部・南部・西部)に分け、ヒッタイト中央政府の各地域に対する影響力の強さとその時代的変遷を明らかにすることを目指した。具体的には行政および宗教にかんするヒッタイト語楔形文字粘土板文書と、被支配者の言語であった象形文字ルウィ語碑文を史料とし、中央と地方それぞれの視点から支配の実態と王国の境界を考察した。 令和元年度末には、予定していた研究会の中止により、発表予定であったヒッタイトの領土・都市に関して実施した研究の結果を報告できなかった。また、3Dモデリングを用いた碑文資料の解読を目的にトルコ渡航を予定していたが、新型コロナ感染拡大により、渡航を見送っている。同年度末の研究会での発表と碑文調査をもって、これまでの成果の最終確認を行う予定であったため、本研究の進捗状況が遅れたため、令和2年度は引き続き全体の成果のまとめを行った。まずは、これまでに得られた結果を踏まえ、古王国時代から新王国時代にいたるヒッタイト歴史地図を作製し、これをホームページに掲載している。また、全体の研究成果は、Orient 55に掲載された、Hajime Yamamoto “The Concept of Territories and Borders in Hittites’ Royal Ideology” において、ヒッタイト王国における本国領土の概念とその背景にある王家のイデオロギーを明らかにしている。この成果を発展させ、令和2年度には、山本 孟「ヒッタイト王権観における領土の保全と拡大について」にて、神々と王権、そして領土の関係性について考察した。
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