研究課題
本研究は,チベットが近代国際社会への参入を試みた20世紀初頭の外交をとりあげ,チベットの政治的地位と 領域の確立に向けた模索の経緯を,高い史料価値を持ちながらも従来十分に利用されてこなかったチベット語文 書史料を用いて明らかにし,これまで未開拓であったチベット外交史研究の基礎を構築することを目的とする。 その際,(1)特に1912年の清朝崩壊直後におけるダライラマ13世(1876-1933)の対外関係・対外政策の射程と その限界を実証的に明らかにするとともに,(2)近代東アジア諸地域で同時継起的に生じた,西洋政治概念・ 外交システムの受容・運用の過程を,チベットに即して検討し,チベットの近代を東アジア近代史,さらには世界史の中に位置づけることを目指すものである。本年度の調査研究においては、前年に引き続き、文献史料の調査・収集とその分析を行うとともに、学会報告・論文執筆を通じて研究成果の日本語および英語による公表に一層力を注いだ。文献調査は、イギリスと日本国内の文書館・図書館において20世紀初頭の外交史料や日記・報告書などの記録の収集を行った。研究成果は、①1910~1930年代の東チベットにおける境界紛争とその交渉過程に関する英語論文執筆と、②辛亥革命前後、明治仏教界とチベット仏教界の関係関係の研究成果の報告、③20世紀チベット・モンゴル関係史に関する英文共著の刊行などを行なった。
2: おおむね順調に進展している
文献調査は、国内では国立民族学博物館・青木文教アーカイブ、東洋文庫所蔵資料、外交史料館所蔵外務省記録、小林一茶記念館所蔵川島浪速関連資料に関する調査を行い、明治末期の日本・チベット関係について重要な資料を多数収集した。国内資料については、当初の予想を上回る成果を上げることができた。海外における文献調査として、イギリス国立公文書館・大英図書館において英国外交文書およびインド省関係文書を多く収集することができた。ただし、校務との兼ね合いから、十分に調査の及ばなかった海外所蔵資料も存在しており、次年度の課題となるであろう。研究成果は、論文執筆・口頭報告ともに順調に行っており、英語論文1本が国内にて刊行されるとともに、フランスの学術雑誌にて別の英語論文1本が受理されている。また、英語による共著も刊行に至った。
3年目にあたり、引き続き研究成果を論文・学会報告にて公表していくとともに、研究の総括と日本語による単著刊行の準備を進めていく。国内調査と海外資料調査も行う予定であり、特に7月には国際チベット学会参加に合わせて、再びイギリスにて文書資料調査を遂行する。
すべて 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 図書 (1件) 備考 (1件)
Iwao Kazushi, Ikeda Takumi (eds.), The Historical Development of Tibeto-Himalayan Civilization(チベット・ヒマラヤ文明の歴史的展開),
巻: 1 ページ: 101-122
https://tibarmy.hypotheses.org/