本研究は,18 世紀ロレーヌ公国の貴族層が公国の外部にその社会的,政治・外交的紐帯を広げていきながら,ロレーヌ固有の自己意識を形成し,あるいは強化していったという,一見すると矛盾した歴史現象について,ロレーヌ貴族社会に内在しただろう集団的アイデンティティ観から理解することを目的としている。
今年度は,コロナ禍および,それ以前から抱えていた個人的事情によって遅れていた研究進捗を取り戻すべく,最終年度ながらもフランス現地での史料収集を行った。今回の史料収集ではとりわけ,助成期間終了後にも本課題を進めるための史料も視野に入れた。昨年度より,本課題は応用統計を専門とする他研究者の協力をえながら進めている。昨年度は,簡易的なものではあるが,一部のロレーヌ貴族家門に絞って整理したデータを定量分析し,そこからえられた成果を論文にまとめることができた。この共同研究は今後も継続する予定であることから,フランス現地では,定量分析に用いることが可能と見込まれる史料に的を絞って作業した。
現在,収集した史料は整理とデータ化の段階にある。そのため,今年度は目新しい成果を発表することはできなかった。一方で,当該の共同研究をつうじて,従来とは異なるアプローチから本課題を継続的に展開させられるだろうとの手応えをえた点は,確実な成果だといえる。
|