本研究は、住宅政策と家族政策にまたがって見出すことができるキリスト教民主同盟(CDU)の社会政策の理念に迫ることを目的とする。 最終年度にあたる本年度は、家族政策について、昨年度の研究調査をふまえ「家族の負担調整」に論点を絞り、アデナウアー財団文書館で、連邦家族相ヴュルメリンクの個人文書を調査した。住宅については、モダニズム建築家マイの住宅団地建設に関する考察をまとめ論文として発表した。さらにニュルンベルクのドイツ芸術文書館で、1957年東ベルリンで開催された住宅団地コンペに関するマイの個人文書を調査し、東西ドイツの都市計画家の共通点を考察した。また、この背景に迫るため、1920年代末から30年代初頭にソ連で手掛けた都市計画について、同文書館で史料を調査した。 研究期間全体を通じ、(1)CDUの社会政策の理念の中心をなすものとしてカトリックの社会像を検討することで、社会秩序の基盤と位置付けられた「家族」の重要性が明らかになった。本研究は、さらに(2)CDU政権内の対抗潮流、(3)CDU政権と対立する社会民主党の対抗構想、と比較することで、(1)の特徴をより明確化することを試みたが、(2)の事例として注目した、連邦家族省学術顧問で、優生思想と関わる人口学者ハルムゼンについて、カトリックの政策論との異同を検討するに十分な史料を発見することができなかった。(3)の事例として注目した上記のマイについては、住宅団地の建設を通じ、独自の共同体形成を企図していことを明らかにした。この構想は、同時代の東ドイツの都市計画家の構想との間に一定の親和性が見られ、このことを通じ、対抗関係にある(1)のカトリックの社会像の位置付けもより明確になった。全体として、(1)と(3)で成果を挙げることができたが、(2)の史料上の問題から、全体を総括する議論を提示できなかった点で課題を残した。
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