本研究は、イタリア中世都市における金銭貸付の世界の実態を明らかにするものである。 まず、昨年度に14世紀ルッカの医者Iacopo Coluccinoの覚書資料を基に明らかにした、金銭貸借の実践について、7月にイギリス・リーズで開かれた国際中世学会で‘The Credits and the Moneylenders in Late Medieval Italy’という題目で報告した。 本年度は、Iacopoの覚書資料におけるクレジットについて、特に彼が農村住民に対して提供していた貸付に焦点を絞って検討した。そこからは、Iacopoは借地農および彼が土地を所有する村落の住民に対してのみ貸付を行っていたことがわかった。これは市民が提供するクレジットのネットワークは、質屋が提供するそれよりも狭く閉ざされたものである可能性を示唆している。この成果は、10月にドイツ・ハイデルベルクで開催された国際シンポジウムChange and Transformation of Premodern Credit Marketsにおいて、‘Small loans to rural men in late medieval Tuscany’の題目で発表した。この国際シンポジウムでは、本研究分野をリードするハーバード大学のスメイル教授やボローニャ大学のカルボーニ教授と濃密な研究ディスカッションを行うことができた。 7月および10月のヨーロッパでの国際学会での発表時に合わせて、ルッカ国立文書館に赴き、資料調査を行った。民事裁判記録や公証人記録の分析に加え、医者Iacopoがクレジットを提供していた相手である農村の状況について課税台帳Estimoを分析し、借り手の社会・経済的状況を把握した。この成果は、上記のハイデルベルクでの研究成果報告論集において公表される予定である。
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