研究課題/領域番号 |
17K13559
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
辻本 諭 岐阜大学, 教育学部, 准教授 (50706934)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 軍事社会史 / イギリス史 / 複合国家 |
研究実績の概要 |
平成29年度に予定されていた研究計画に沿って、イギリス陸軍の査察報告書および点呼簿を中心とする軍事行政文書を用いて、陸軍各部隊の兵士のナショナリティに関するデータを調査年(1760、1770、1780、1790年)ごとに抽出、数値化して集計・分析した。部隊に関しては、近衛騎兵連隊1つ、近衛歩兵連隊1つ、一般騎兵連隊2つ(騎兵と軽騎兵1つずつ)、一般歩兵連隊4つ(*特定の地域の名を冠した連隊2つ(スコットランド、アイルランド1つずつ)と、そうでない連隊2つ)を抽出し調査を行った。 上記の数量分析の結果、調査対象としたほとんどの連隊においてイングランド出身者の割合が高いものの、18世紀後半を通じて(とくに戦時の軍拡期において顕著に)アイルランド出身者の割合が上昇することが明らかとなった。ただし、*の連隊については、それぞれスコットランド、アイルランドとの強い結び付きが一貫して見られた。この結果から、18世紀後半の間にイギリス陸軍においてナショナリティの複合性が増していったこと、その一方で、特定のナショナリティと結び付いた連隊の存在によってナショナリティごとの区分も保持されていたことが確認された。 以上の成果について、近現代史研究会およびInstitute of Human Sciences Open Seminar, Toyo Universityにて口頭報告を行った。現在、2つの報告をもとにした論文を作成中であり、平成30年度中の発表が見込まれる。また、史料収集のため、平成29年11月15日から21日までイギリス国立公文書館にて調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【研究実績の概要】で述べた通り、今年度に予定されていた、①史料調査、②史料に基づく数量分析、③分析に基づく研究報告、のいずれにおいてもほぼ計画通りの進展がみられたため。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度も、提出した計画通りに研究を実施する。具体的には、18世紀に多数出版された軍事教練書・解説書、陸軍将兵が書き残した史料(自叙伝、日記、手紙など)から、軍内のナショナリティの混合状態が当時においていかに経験・認識され、それがどのように統合的なアイデンティティの創出へとつながっていったのかを(ただし、同時にその内部では複数のローカルなアイデンティティも保持されていたと考えられるため、その重層性についても併せて)考察する。兵士の意識は、何より彼を取り巻く環境(とくに人的な関係)に大きな影響を受けると考えられることから、考察にあたっては、(a) 勤務(戦闘・行軍・軍事施設や道路の建造・軍事セレモニーなどの諸活動)中に見られる兵士間の協力や対立、(b) 勤務外(宿営・食事・余暇)の時間に見られる兵士間の交流、(c) 家族・友人との手紙のやり取りや出身地域での新兵徴募活動などから窺える兵士の郷土との繋がり、(d) 兵士の除隊後のキャリアの4点に注目して分析を行う。 上記の研究に必要な史料のうち、同時代に刊行されたものについては、前年に引き続き、EEBO、ECCOなどのオンライン・データベースを用いて、19世紀以降に出版されたものについては実物を閲覧して調査・分析を行う。手稿史料については、主にNational Army Museum, LondonおよびBritish Libraryに所蔵されているものを利用する(そのためイギリスにおいて2週間程度の史料調査を行う)。 以上をふまえて、2年間の研究を通じて得られた結果をとりまとめ、成果の発表(学会での口頭報告および学術論文の執筆)を行う。
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