本研究は、17世紀の神聖ローマ皇帝軍を例に、近世のヨーロッパにおける貴族と君主の関係を捉え直し、軍隊というテーマを通じて新しいヨーロッパ近世史像を描き出すことを目的としてきた。具体的に着目したのは、皇帝が兵力を立ち上げ運営するうえで貴族とその社会的ネットワークが果たした役割である。皇帝軍では特にイタリア語圏から来た貴族が位置を占めたため、彼らの物的・人的な貢献に対する皇帝の報酬のありかたを分析してきた。その際、既存の研究で一般的な、「絶対君主」への貴族の従属という一面的な見方の批判的な捉えなおしを重視し、君主と貴族の双方向的な関係性を検討してきた。 今年度にケーススタディとして特に注目したのはゴンザーガ家である。北イタリアのマントヴァを本拠地とするゴンザーガ家は、その周辺に割拠する分家の当主たちも含めて、ハプスブルク家の重要なクリエンテルだった。歴代のゴンザーガ本家と諸分家の当主たちはしばしば傭兵隊長としてハプスブルク家に仕え、家門のネットワークを活用して人的・物的な貢献をしてきた。 今年度の研究ではゴンザーガ家とハプスブルク家の関係が三十年戦争という大きな文脈のなかで持った意味を検討した。その結果、ゴンザーガ家の軍事的な役割に加え、同家がスペインとオーストリアの両ハプスブルク家の間で仲介人として大きな役割を果たしていたことが明らかになった。またゴンザーガ家の家門政策にとって皇帝とスペイン王の庇護が持った重要性が浮き彫りになった。
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