本年度は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、所属研究機関から海外渡航の禁止が通知されたため、当初計画で最終年度に予定していた海外資料調査はやむをえず中止し、代わりに昨年度までに収集済みの史資料および本年度新たに購入した史資料に基づき、ポイティンガー図のなかに表現された「世界」の「複層性」と「統合性」について研究を進めた。特に、ローマ帝国時代におけるヘレニズム地理学の受容のあり方と「古代末期」における地図学的思考について、先行研究の摂取を通じて認識を深めることができたのは大きな成果であったが、目標としていた研究成果の学術雑誌投稿には至らなかった。また、本年度は、シンポジウム「ヨーロッパ史における水の資源化とその管理・統制」(2020年11月28日、九州西洋史学会2020年度秋季大会(共催:九州歴史科学研究会)、福岡大学、オンライン開催)において「後期ローマ帝国時代のコンスタンティノープルにおける水の利用とその制限」と題する口頭報告を行ない、これを原稿化して『西洋史学論集』58号(九州西洋史学会、2021年3月30日発行)に発表した。また、都市ローマにおける街道・城壁・墓地と感情の関係について、「ローマ街道沿いの墓地と感情」と題する論考を執筆した(南川高志・井上文則編『生き方と感情の歴史学:古代ギリシア・ローマ世界の深層を求めて』山川出版社,2021年4月25日発行に所収)。本研究課題は、西洋古代世界における地理的認識・世界観と街道・城壁・水道などインフラとの関連を念頭に置くものであり、その意味で有益な展望が得られた。ほかに、本研究課題が対象とする時代と研究動向について、簡潔な解説(「古代末期」論争」、金澤周作監修『論点・西洋史学』ミネルヴァ書房、2020年4月30日発行に所収)、および、関連研究文献の書評(『西洋史学論集』58号(前掲)に所収)を、それぞれ発表した。
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