研究実績の概要 |
北海道における縄文時代草創期の生業戦略と居住形態を明らかにするために、遠軽町タチカルシュナイ遺跡M-I地点の発掘調査を行った。発掘の結果、多くの遺物が得られ、これまでに類例のない石斧など重要な遺物も多数出土した。それに加えて、小片化した土器も出土した。これらの土器は型式・年代的な位置づけが難しいが、北海道における土器出現期にかかわる資料として注目される。多様な資料が出土したことにより、当時の生活や文化的特徴を知るための多くのてがかりを得ることができた。 列島北部における生業戦略と居住形態の時間的変化と地域差を検討するために、更新世末~完新世初頭の主要な遺跡を抽出して、指標となる遺物型式と放射性炭素年代測定のデータベースを作成した。本年度は主に北東北における年代値則値を集成し、北海道の事例については新たな報告例を追加し、年代値に基づく基本的な変化を整理した。 本州―北海道間における文化的接触について明らかにするために、北海道と青森県の遺跡出土資料や採集資料を実見し、分析した。北海道の新石器型狩猟採集社会の形成をめぐっては、晩氷期前半(15,000~13,500年前)、完新世初頭(11500~10,000年前)の二度の期間で、本州からの大きな文化的影響があることが絞り込めてきた。晩氷期前半については、北海道枝幸町の博物館で新資料を見出し、道北にまで縄文草創期文化の波が到達していたことが明らかになった。完新世初頭については、北東北と北海道の太平洋側地域の遺跡間で組成する遺物内容を比較し、東北から北海道に新たな物質文化が到来する過程での変化を年代とともに追うことができた。 北海道千歳市イカベツ2遺跡や日高町ピタルパ遺跡、ケノマイ遺跡などの調査によって、北海道固有の完新世初頭土器文化の中にも、本州の石器製作伝統の影響を強く受ける集団とそうでない集団が混在することが明らかになった。
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