研究課題
本研究は、前1千年紀前半から中頃を中心とする時期のユーラシア草原地帯東部の交流復元を目指したものである。当該期は、中原における秦漢と対峙する匈奴などの諸集団が出現してくる直前の段階にあたり、同時にユーラシア全体でも鉄器化が進み、社会・思想上の大変化が生じた。本研究では、青銅器の実物観察から鋳造技法を明らかにし、その系譜や空間分布を辿ることで、当該期の交流を統一基準によって把握することを試み、以下の動態を明らかにした。前2千年紀末から前1千年紀初頭には、南シベリアのミヌシンスク盆地に由来する青銅器の伝統がユーラシア草原地帯全体に拡散し、それが各地で地域性を徐々に帯びていった。トゥバのアルジャン1号墳や、長城地帯における夏家店上層文化がこれに該当する。前8~7世紀頃になると、ミヌシンスク盆地由来の伝統とは一線を画す、新たな地域伝統が、ユーラシア草原地帯の各地で発生する。長城地帯では、中原の獣面文様と草原由来の短剣がミックスされた、いわゆる秦式剣が発生し、これまで目立たなかったカザフスタンからウラル東部附近でも、動物を詰め合わせた文様やアキナケス剣が出現する。この段階で目を引くのは、鉄や金がまとまって出現し始めることで、これと対応するかのように、長城地帯における青銅器の化学成分も変化することが明らかになった。こうした新たな伝統のうち、カザフスタンからウラル付近(中央アジア)で出現した文様や器物群が、前6-5世紀頃、ユーラシア草原地帯東部全体に拡散した。長城地帯でも、これまで草原地帯の影響が顕著でなかった寧夏、甘粛からも、中央アジア由来の諸伝統が確認される他、興味深いことに、万里の長城が築かれ始める。この時期の中原では、戦国時代から秦にかけて、諸国の統一化が進んでくるのであるが、草原でも伝統の斉一化が見られ、「草原」と「中原」という纏まりとしての対峙が明瞭になってくるのである。
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中国考古学
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学習院大学 東洋文化研究所 調査研究報告
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