本研究の課題と目標に対しては、令和2年3月に刊行した単著『中国初期仏塔の研究』(臨川書店、2020年3月)によって、一定の成果を示すことができた。その成果は、大きく4つの部分から構成され、第Ⅰ部では仏塔および仏教寺院の中国伝来と受容の過程について歴史的経緯と思想的基盤をふまえて整理し、第Ⅱ部では東晋から南北朝時代における仏塔の舎利埋納について論じた。それらの検討により、インドから伝来した仏塔が中国的変容をとげていく過程を明確にした。つづく第Ⅲ部では雲岡石窟の発掘調査成果に対する考古学的検討と仏塔の図像学的検討をもとに寺院景観の復元を試み、第Ⅳ部では主に北朝仏教寺院の発掘成果から寺院の空間構造を復元し、その思想的背景や東アジア諸地域との関係を考察した。 令和2年度は、単著の執筆過程でえられた新たな観点や知見を掘り下げ、さらなる研究の発展と充実を目指した。その成果は、7~9月に3回、3月に2回、合計5回の市民向けセミナーにおいて発表し、社会への成果還元を積極的に実施した。一方、今年度に予定されていた学会報告と国際シンポジウムでの報告は、新型コロナウイルス流行の影響により、学会・シンポジウム自体が一年間の延期となったため、これまでの研究の成果をまとめて令和3年度に発表する予定である。また、本研究課題によって整理してきた20世紀前半の写真資料のうち、鞏県石窟・響堂山石窟・天龍山石窟・山東諸窟などの整理成果についてもやはり刊行が遅れており、令和3年度中に図録として出版する予定である。
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