最終年度における研究では、初年度と次年度に取得したエジプト北部と南部の青色彩文土器のデータを比較し、新王国時代を代表する青色彩文土器の生産と流通に関する研究のまとめを行った。また、補足の現地調査も実施している。 今年度の研究により、3年間の研究をまとめることができた。すなわち、新王国時代の画期とされる「アマルナ時代」以前は、王宮のある少数の中心都市に生産地が限られ、そこから全国に流通していたものが、それ以後は、多数の地方都市に生産地が移るという増加傾向が確認された。また、地方ごとに胎土、器形、装飾が異なることや、胎土や青色顔料の化学組成も異なることが理化学的分析から示されたことから、地方ごとに生産、流通するようになった。更には、単純埋葬のような簡易な埋葬でも青色彩文土器が見られるようになることから、社会の幅広い階層の人々にこの土器が使用されるようになったことが明らかとなった。こうした点から、地方経済が活性化し、経済の中心が中央から地方に移っていったと結論づけられる。これはアマルナ宗教改革による影響の新たな側面として注目される。これまで青色彩文土器の生産、流通の変遷に関する研究はほとんどなく、新たな視点を提示することができた。 なお、補足調査として、令和2年2月にダハシュール北遺跡において、青色彩文土器の調査を実施した。 研究成果については、日本オリエント学会、日本エジプト学会において発表を行うとともに、成果をまとめ、古代エジプトの土器専門誌である「Bulletin de Liaison de la Ceramique Egyptienne」に投稿を行った。
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