本研究は、形態学的および安定同位体分析の複合的な検討を要として、古墳時代の「馬飼い」の実像に迫ることを目的としており、2019年度は本研究の最終年度である。 2018年度の研究実績として、河内の牧の推定地として有力視される蔀屋北遺跡から出土した馬歯の安定同位体分析を行い、河内の牧におけるウマの繁殖、飼育、管理、移動、食性など、馬飼い集団がどのようにしてウマを飼っていたのか、またウマの増殖に関する他地域との連携関係などの解明にも視野が広げられるような結果が得られた。 それに応じて2019年度は、河内地域内での他の遺跡におけるウマの出土状況との比較や、他地域でウマを飼育していたことが確実な遺跡との比較を行った。蔀屋北遺跡で飼育されていたウマは幼齢ないし若齢個体が多いが、繁殖は別の場所である可能性が指摘されてきたが、それに対して分析を行った半数以上のウマが産地から移動している可能性を指摘でき、隣接の讃良郡条里遺跡でも類似する様相をみる。このことから、河内の馬飼の拠点が繁殖地というだけでなく、ウマの集散地としての役割があったのではないかと推定することができた。しかし、馬飼いという職掌がこのようなウマの集散地としての機能を維持できるかどうか疑問が残り、王権との関連を想定することが妥当と考えられる。研究協力者と馬飼いに関する研究会などを開催し、河内の馬飼いが飼育した馬の特徴とその飼育状況から、ウマの生産や飼育・管理についてヤマト王権の関与のしかたなどにも議論を深めることができ、古墳時代の河内の馬飼いの実態に迫る成果が得られた。
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