研究課題/領域番号 |
17K13570
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
山田 綾乃 早稲田大学, 総合研究機構, 招聘研究員 (60778687)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | エジプト / 木造船 / クフ王 / 造船 / 工程 / 番付 / クフ王第2の船 / 考古学 |
研究実績の概要 |
本研究は、エジプト・ギザに位置するクフ王のピラミッド南脇に埋納された古代木造船「クフ王第2の船」に関して、工人らによって記された文字資料を記録・解読し、文字あるいは記号を用いた造船システムの分析を通して、造船工程を解明・復原することにある。 本年度新たに船坑から取り上げられた部材組成は主に甲板梁、天蓋梁・柱、舷側板、艫・舳先から成り、その他に姉妹船であるクフ王第1の船に類例のない小型部材も複数確認した。甲板梁および天蓋関連部材はこれまで通り1/10スケールでの実測を行い、舷側板など10mを超える大型部材は写真測量の技術を用いて形状を記録した。船坑内での舷側板の埋納場所は、おおむね組み合わせた時の位置と対応しており、舷側板同士は接合面に施されたホゾと、内面に無数に開けられた貫通孔に縄を通す方法で互いに緊結されていたと推察された。ホゾおよび貫通孔同士の間隔はほぼ等間隔に設定されている。 一方文字資料の発見は、甲板梁、天蓋梁、舷側板でそれぞれ確認された。甲板梁は4つの文字(Phyle-mark)と数字の組み合わせにより配置を特定できる仕組みとなっていることが明らかとなった。さらに数字を数える方向性が、右舷は船首側から、左舷は船尾側からと異なっていることを指摘し、その理由を右から文字を記す古代エジプトの習慣と結び付けて考察した。尚、天蓋梁に関してもほぼ同じ仕組みが用いられていると現時点で推察され、わずかな長さの違いを判断し正確に配列するための工人の工夫が観察される。 舷側板から発見された文字はわずかであるが、下弦の半月状の記号に数字が付随する文字が発見された。同様の文字が肋骨からも発見されており、おそらく肋骨の配置を示すための記号と考えられる。 以上のように、今期新たに発見された部材の記録および文字資料の分析により、甲板梁、天蓋梁、舷側板の主な構造と文字資料の関係が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は甲板梁、天蓋梁、舷側板と異なる属性の部材をそれぞれ記録・分析することができ、船全体の4分の3の部材記録をほぼ終えることができた。尚、今期は大型部材の取り上げが相次いだこともあり、部材取り上げの完了には至っていない。したがって、発掘調査に進捗状況により残り4分の1の作業(主に船底板の記録と舳先・艫の復元)を次年度に繰り越すこととなった。 記録作業以外の考察および成果報告は順調に進展しており、2018年は『昌平エジプト考古学会紀要』第6, 7号にて、甲板と船首楼(船首に建てられる東屋)の概報を出版した。さらに2019年11月の12th International congress of Egyptologyにて、これまでに発見された文字資料の全容を学界に報告する予定となっている。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は残る4分の1の部材の記録及び分析を完結させることを第一の目標とする。さらに、本研究のまとめとして、これまで属性ごとに考察してきた文字資料にみられる法則性を、船全体を通して検討し、時系列に沿って造船におけるそれぞれの役割を明らかにする。 研究の完了を目指すうえで、今期は船の専門家あるいは同時代資料を発見した研究者との交流を活発化し、意見交換を通してより蓋然性の高い結論を導き出していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は大型部材の取り上げが集中したため発掘作業の進捗に合わせて、渡航時期を調整した。予定よりも1回渡航回数が減ったことにより、予算額と使用額に差額が生じた。 残額は残り4分の1の部材記録のための渡航費および次年度出席予定の国際学会の渡航費に充てることとする。
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