本研究の主旨は、エジプト・ギザに位置するクフ王のピラミッド南脇に埋納された古代木造船「クフ王第2の船」の部材に記された文字資料を記録・解読し、文字あるいは記号を用いた造船システムの分析を通して、造船工程を解明することである。 研究最終年度に当たり、本年度はまず船体(hull)を構成する大型部材を写真測量によって記録し、三次元モデルから線画を抽出、船体構造と部材同士の緊結方法について考察した。次いで、甲板梁、肋骨、舷側板、目板等に記された文字資料を記録・集成し、番付の法則性を分析した。今期成果で興味深い点は、舷側板に刻まれた下弦の半月状の記号に数字が付随する文字資料の発見である。古代エジプトの船は外板から船体を形作る手法で作られており、内部の空間を保つためいくつかの半円状のフレームが据えられている。発見された下弦の半月状の記号は、このフレームの形状を模したと考えられ、付随する数字は複数あるフレームの並び順を特定するための番号と判断された。フレームからも同様の文字が確認されたことから、符牒として機能していたと推察される。フレームの細部は船体に密着するようそれぞれ調整されているため、船首・船尾で入れ替えることもできなかったと考えられる。したがって、符牒はその正確な配置を補助していたと考えられる。これまで本研究で収集された文字資料は筆記体ヒエログリフか数字に限られていたが、初めて部材の形状を記号化した事例を確認した。 本成果を含むクフ王第2の船の部材番付システムについては、2019年11月に12th International congress of Egyptologyにて発表し、文字のバリエーションや情報伝達のシステムに関心が寄せられた。
|