2019年度にオマーン内陸部のワディ・タヌーフ峡谷において実施した遺跡調査により、本研究課題に合致する先イスラーム期墓地遺跡(WTN07・13)が発見されたため、補助事業期間を延長して今年度に追加の発掘調査と成果取りまとめを実施することとした。しかし、延長申請時の想定よりもコロナ禍が長期化したため、現地へ渡航して調査を実施することができなかった。また、成果発信の場として想定していた国際学会Seminar for Arabian Studies 2020も中止となった。そのため、今年度は現地で取得したデータおよび標本資料の分析と、研究成果の論文化に注力した。その詳細を以下に記す。 まず、WTN13墓地遺跡における墓の立地および形態に関するデータを整理し、研究協力者の黒沼を筆頭著者とする調査概報として英文学術誌『The Journal of Oman Studies』に投稿した。データを分析したところ、墓地の造営時期が紀元前2千年紀前半のワディ・スーク期を中心とすることが判明したため、当該時期の南東アラビアにおける考古文化の諸相と研究上の論点をレビューし、黒沼を筆頭著者とする総説論文を『西アジア考古学』に投稿した(採録決定済)。研究代表者はこれらの論文の編集および査読意見への対応を担当した。また、研究協力者の三木が、WTN01洞穴遺跡の発掘トレンチから採取した土器標本の薄片作成と観察を行い、ワディ・スーク期の土器胎土の記載岩石学的特徴を分析中である。くわえて、補助事業期間の前半に同国の大規模墓地遺跡であるバート遺跡群で実施した地考古学的調査の成果を整理し、GISを用いて遺跡群の地形・遺構分類図を作成するとともに、堆積学的・年代学的分析の結果と照合して、考古学的な視点から環境変遷と人為活動の関係性を考察した。この成果については2021年度中に論文を国際誌に投稿予定である。
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