古墳時代の研究では、「王陵級」と呼ばれる超巨大古墳の様相把握が最も重要である。奈良県奈良市に所在するウワナベ古墳は墳長255mを測る超巨大古墳であり、中堤の一部を奈良国立文化財研究所が発掘調査し、100本を超える埴輪が原位置で取り上げられている。しかし、発掘調査報告書では資料の一部の提示にとどまっており、資料の再整理とその成果の速やかな公表が求められる。そこで本研究は、ウワナベ古墳出土埴輪を中心に佐紀古墳群出土埴輪の整理・研究を通じて、古墳時代中期の王陵級古墳における埴輪群組成の実態をあきらかにすることを目的とし、畿内中枢部における埴輪生産体制の時系列的な変化とその背後にある王権による労働力編成の在り方を実証的に論じることを目指す。埴輪群の構成を理解するためには、悉皆的な器種同定および接合検討により器種組成をあきらかにし、そのうえで同工品分析をおこない埴輪工人の編成を把握する必要がある。あわせて、佐紀古墳群東群の埴輪の生産地と目されてきたものの、様相が不明な部分も多かった東院下層埴輪窯についての実態解明も不可欠と考える。 最終年度となる2021年度はウワナベ古墳出土埴輪や東院下層埴輪窯出土資料について整理と検討を引き続きおこなった。ウワナベ古墳については、補足の接合検討を実施・完了し、3次元計測、写真撮影をおこなった。その成果については、中堤外周埴輪列を中心に写真図録として公表した。また、東院下層埴輪窯については、遺構を精査するとともに出土資料の帰属があきらかな1号窯床面直上の埴輪と5号窯灰原出土資料について提示した。そして、これらの埴輪の検討から、東院下層埴輪窯跡群が佐紀古墳群東群の巨大古墳造営開始を契機に開窯し、佐紀古墳群東群での巨大古墳造営停止により、埴輪生産を終了ないし縮小し、中小古墳への広域供給を目的とする菅原東埴輪窯へと埴輪生産の中心が移ったと理解し、発表した。
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