研究課題/領域番号 |
17K13575
|
研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
研究代表者 |
中村 亜希子 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 客員研究員 (60600799)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 渤海国 / 紋様磚 / 三次元計測 / 東アジア都城 / SfM-MVS |
研究実績の概要 |
令和元年度は、東京大学所蔵の上京城遺跡出土紋様磚(注:他論文等では「磚」は土偏のセンの字を使用)のうち、新たに長方磚18点と方磚40点を三次元計測し、紋様の復元を進めた。その結果、長方磚には少なくとも5つの笵が、方磚には4つの笵が存在することが判明した。従来の手法では、紋様磚の笵の同定はほとんどおこなわれず、目視観察による型式分類も、長方磚では全資料のうち約4割、方磚では3割強にとどまっていたが、三次元データによる復元・比較作業によって、長方磚はすべての資料について笵の同定をおこない、方磚についても約7割の資料の笵の同定が済んだ。考古資料の同笵研究において、三次元計測データが非常に有効であることが実証できた。 また、製作技法の検討から、渤海の紋様磚は分解式の枠型と底板に分かれたものであり、新羅の紋様磚の型に非常に近い特徴が認められることが判明した。紋様も新羅の紋様磚との共通性が認められるため、8世紀半ばの上京遷都の際には新羅の瓦磚工も上京城の造営工事に携わった可能性が高い。なお、渤海の紋様磚は、設置する場所に合わせて設計したというよりも、むしろ、定型の紋様磚を生産し、設置する場所に合わせて打ち欠くなど加工をした上で用いた例が多く認められることが分かった。 出土地点の検討からは、上京城では第3・4号宮殿の造営時に紋様長方磚の生産を開始し、第1・2号宮殿の造営にあたって床面等を飾る紋様方磚の生産を始めたと考えられる。8世紀末の東京遷都の際に、これらの笵は八連城遺跡に瓦磚を供給した窯へと移動しており、上京城還都後の9世紀には新たな磚笵が複数製作・使用されたことが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
紋様磚の三次元計測は、予定していた大半の資料について完了しており、紋様復元も9割方以上終えている。製作技法の検討や出土遺跡・地点についても考察をおこなっており、研究は全体としておおむね順調に進展していると言える。 ただし、研究期間中に、分析に用いているソフトウェアの大規模なアップデートがあったため、解析時期による計測データの比較検討を行う必要性が生じたことに加え、新型コロナウィルスの流行により一部成果発表と資料調査を延期せざるを得なくなったため、当初の予定期間よりも1年間研究期間を延長することにした。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、計測が済んでいない資料についての三次元計測を終え、紋様の復元データの補完をおこなう。また、研究開始時点での計測データと現在の計測データの比較検討をおこない、データをある程度均質化させる予定である。 さらに、新型コロナウィルスの収束の目途が立っていないため、研究成果の公表の一手段として、遺物の三次元計測の手法についてより多くの研究者・学生らと共有するために動画配信を進めている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの流行により予定していた資料調査をおこなえず、成果発表を予定していた研究集会も延期になったため、その予算が未使用となった。また、取得した三次元計測データの検討・編集作業が残っており、そのための予算も残している。
|