最終年度は、これまでの調査で明らかになった事実を踏まえて、それを異なる立場から見ている主体への調査を通じて、事実関係の理解を深めた。 継続的調査を行っている企業では、自社によるキャラクターの開発と運用に成功していたが、その知的資産が他社から侵害される状態にここ数年陥っていた。その打開が難しかった背景として、コンテンツ産業の知的資産に関する法的知識や業界慣行を理解している企業や人材が地方にはほぼ存在しておらず、周囲からの支援が期待できなかったことがある。また、地方の地域労働市場では必要な技能を持った人材を雇用することが困難であるため、自社による自力解決の余力が乏しいことも問題であった。 昨年、このような調査対象企業の状況の相談を受けたため、旧知の弁護士を紹介し、顧問として問題解決に当たっている。この人物の主要活動地域は、本企業と同じ九州の他県であり、コンテンツ分野の知的財産管理技能士の資格も有しているが、普段はほぼコンテンツ案件の仕事はないため、いわゆる町弁として活動しているのが実態である。したがって、コンテンツの法律事務所は東京でしか成り立たないとの認識であった。よって、地方にコンテンツ企業の進出やクリエイターの活動が以前より増えているのは確かであるが、それを支える社会基盤は未だに非常に脆弱なのである。 こうした法曹関係の社会基盤のみならず、企業やクリエイターのネットワークもまだまだ不十分である。この企業と同じ地域にUターンで戻ってきた別のクリエイターの認識では、それなりに地元在住のクリエイターなどはいるのだが、それぞれの存在は認知しつつも、コミュニティは十分に形成できておらず、ましてコロナ禍でそれが打撃を受けている状態であった。 ゆえに、少なくとも調査地域では、狭い意味での制作業務は可能であるが、より上流の知財運用局面では、社会基盤の脆弱さが障害となっている。
|