前年度からの繰越である本年度は、新型コロナウィルスをめぐる状況が改善された場合、インド・ウッタラーカンド州において一ヶ月程度の補足調査を行う予定であった。しかしそれが叶わなかったため、「人々の生物多様性登録」プロジェクトやガンジス川の法人格訴訟の関係者にオンラインでインタビューを行うと同時に、メディア記事や裁判資料の分析、生物多様性をめぐる人類学、科学技術社会論、生態学、法哲学などの文献の精読を行った。そしてその成果をもとに、NatureCulture誌(ガンジス川の法人格訴訟を分析するための多種民族誌的な方法論と法学分野との対話可能性について)、『文化人類学』誌(法の生成をめぐる人類学的研究の展望について、高野さやかと共著)に投稿した論文を完成させた(いずれも採録決定済)。 さらに、訳書『不確実性の人類学:デリバティブ金融時代の言語の失敗』(以文社、中川理と共訳)、日本工業所有権法学会での発表(伝統的知識と知的財産権をめぐる文化人類学的アプローチについて)、現代人類学研究会での発表(ガンジス川の法人格訴訟の事例と文化人類学の「自然化」について)を行った。それらにより、本プロジェクトの一つの目的であった学際的ネットワークの拡張に成功し、コロナ禍においてますます重要性を帯びる「不確実な状況下で多種との共生はいかに可能か」というテーマについて、文化人類学の独自の意義を明らかにすることができた。
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