プロジェクト最終年度となる2020年度は、成果の発表がおもな中心となった。まず、本プロジェクトの最初の大きな研究活動だった展覧会(2017年度に国内3カ所で開催)とその後のフォローアップ内容の成果を、神戸大学社会学研究室発行の『社会学雑誌』(第37号、2020年8月)の特集としてまとめた(特集タイトル:「記憶風景を縫う――アルピジェラと手仕事の射程」)。本特集は、酒井による「序 記憶風景、手仕事、アルピジェラ」、共同研究者Roberta Bacic氏の論文の翻訳「『争われる空間』のアルピジェラ」、2017年展示時のシンポジウム内容の記録、および2017年展示長崎展の現地実行委員である友澤悠季氏による論文「生きてあることの証」から構成されている。本プロジェクトの集大成としての意味をもつ、充実した内容のものとなった。 2017年展示は、英国領北アイルランドのアーカイブConflict Textilesおよび長野県の私設記念館である大島博光記念館との長年の共同活動の成果であったが、この国際的なネットワーク構築と共同作業の意義についてまとめた学会発表を、9月、The 10th International Conference of Museums for Peace(オンライン開催)にて行った。 本プロジェクト遂行の過程で、新たな理論的関心「道徳/倫理の人類学」も浮上した。これについては日本文化人類学会第54回研究大会にて分科会「『倫理的転回』が切り開く視界、およびその危うさとは――道徳/倫理の人類学の興隆を考察する」と題した成果発表を行った。この分科会にもとづく雑誌特集を『文化人類学』で発表する準備が、現在進行中である。 全体としてみれば、理論、研究活動実践、国際共同研究という、重要な3つの側面について、それぞれ成果を発表することができ、有意義なまとめの年度となった。
|