研究課題/領域番号 |
17K13592
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研究機関 | 沖縄国際大学 |
研究代表者 |
比嘉 理麻 沖縄国際大学, 総合文化学部, 講師 (00755647)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 自然保護 / 社会運動 / 米軍基地 / 人間と動物 / エコロジー / ジュゴン / 沖縄 / 文化人類学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、沖縄県名護市辺野古の基地反対と結びついたジュゴンの保護活動がどのように生じ、地域社会にいかなる繋がりと隔たりを生み出しているかを、人びとの海利用の歴史とジュゴンとの関係、および保護活動家の営みとの関連で理解し、新たな理論モデルを提示することにある。この目的を達成するために、まず沖縄の海利用の変遷と基地計画の歴史を明らかにする【課題1】。次にジュゴン保護と基地反対運動の展開について現地調査を実施する【課題2】。さらに人と動物の関係論や環境・社会運動論に関する理論研究を行なう【課題3】。 平成30年度は、【課題1】に関連する資料整理を継続し、新たに【課題2】に関連する現地調査を実施するとともに、【課題3】に関連する理論研究に着手した。主に【課題2】に関しては、基地建設中の名護市辺野古とその周辺地域で活動を続けるジュゴン保護団体にて実地調査を行なった。ジュゴンは、辺野古とその周辺海域に生息するとされ、辺野古の海を埋め立てる基地建設により、主要な餌場が破壊され、その絶滅が危惧されている。本研究の実地調査では、ジュゴン保護団体の成立経緯や活動動向、他の団体との関係や政治的交渉について基礎資料を収集するとともに、実際のジュゴン調査の方法や調査結果(ジュゴンの生息状況、生息場所と餌場)および具体的な保護対策について聞き取り調査を行なった。さらに、基地建設の進捗状況が、現在、当該地域で活動を続ける人びとの経験にいかに影響を及ぼしているかについて、インタビュー調査を実施した。 その成果は、主に、人間と動物の関わりと隔たりの問題として、野生動物と家畜との相違に注目した一般向けの講演、国内の研究会での口頭発表、および学術論文として公開した。また、調査地へのフィードバックを兼ね、普天間基地と辺野古基地建設予定地の地域住民や地元大学生を集め、ジュゴン・基地問題の勉強会・意見交換会を主催した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画は、おおむね順調に進展している。平成30年度は、文献資料収集と先行研究の批判的検討を継続するとともに、ジュゴン保護と基地反対の繋がりに関するデータ収集と、それらを考察する上で不可欠な理論研究に着手することができた。 また、平成30年度は、研究会に参加し口頭発表を行ない、学術論文を公表しその成果を発表してきた。また、研究成果を広く地域社会に公開するために、一般向けの講演を行なうとともに、地域住民との基地問題に関する勉強会・意見交換会を主催した。そのため、当該年度は研究成果の積極的な公開を図るとともに、最終年度に向けた研究蓄積を着実に実施してきたといえる。 以上の理由から、当該年度は、研究がおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、最終年度に当たる平成31年度は、前年度までに得られた【課題1】【課題2】の事例研究の成果をふまえ、さらに補足調査を実施する。具体的には、平成31年3月に沖縄本島北部の西海岸側で、1頭のジュゴンの死骸が発見されたことを受け、現在、沖縄本島に生息するジュゴンは僅か2頭のみだと危惧され、緊急保護対策が活発化している。本研究では、これまで名護市辺野古のある北部・東海岸に焦点を絞ってきた調査範囲を西海岸側にも広げ、ジュゴンの餌場となる自然の浜が残る北部一帯地域を視野に入れ、ジュゴンの死をめぐる人々の反応や漁協の取り組みなど、インタビュー調査を実施する。 また並行して、【課題3】にかかわる理論研究として、人と動物の関係論と軍事環境問題・社会運動論を批判的に検討し、動物、環境・基地問題、社会運動という3つの問題系を総合的に捉える理論的枠組みを構築する。 それらの研究成果を総括し、新たな「軍事-動物論と環境・社会運動論」の理論・事例研究として、学術論文の執筆、調査地へのフィードバック、一般市民を対象とした講演など、様々な聴衆を考慮したかたちで広く研究成果を公開する。
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