研究課題/領域番号 |
17K13594
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
八木 百合子 国立民族学博物館, 学術資源研究開発センター, 助教 (80622133)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アンデス / キリスト教 / カトリック / 聖像 / 物質文化 / 所有 / 継承 / 信仰 |
研究実績の概要 |
本年度は、聖像(幼児イエスの像)の所有と継承に関して、これまでの調査データを精査するとともに、とくに興味深い事例が観察されたペルー南部のクスコ市に焦点をあて、個々人が所有する聖像の継承プロセスについて分析をおこなった。
その結果、同地域ではさまざまな理由から不要と目された聖像でさえも廃棄されることなく、新たな人の手を介して再び継承のプロセスに取り込まれる点が浮かび上がってきた。この点から、家族のなかで世代をこえて受け継がれてきた聖像が、親族の枠をこえた第三者に引き継がれることでモノとして存続すると同時に、そこには人びとの信仰と関わる問題や宗教的なモノがもつ本質的な特徴が関わっている点が明らかになった。さらにこうした分析結果から、宗教的なモノ(聖像)が従来のカトリック的な枠組みにおいて理解されてきた神々の表象媒体としての機能にとどまらず、さまざまな人びとの信仰をつなぐうえで重要な役割を担う可能性が見出された。
上記の成果をふまえ本年度は、2019年9月にクスコ大聖堂付属サグラダファミリア聖堂で開催された文化遺産と歴史に関する国際セミナーにおいて、国内外の研究者等の出席のもと研究報告と意見交換をおこなった。また、現地の関連機関の協力のもと、アンデス地域の宗教伝統に関する展示企画をペルー・クスコ市で開催し、調査写真などを使った成果の一般公開も実施した。このほか、本研究課題の最終成果として、国内の関連する研究誌等に論文を発表したほか、本課題に関する著書の出版に向けた準備をすすめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は予定していた調査を一部短縮したものの、これまでの調査で得られたデータの分析結果を精査することで、本研究が解明を目指してきたアンデス地域における聖像の所有の実態と継承プロセスの一端を明らかにすることができた。とくに継承にかんする問題からは、従来の研究で把握されてこなかった第三者への譲渡という側面に目を向けることで、モノを介して展開される信仰の新たな側面を浮き彫りにすることが可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は本研究で得られた視点をさらに発展させ、宗教的な領域におけるモノに関する議論の深化をはかりたい。 そのためにまず、宗教的なモノの行く末をめぐる問題、とくにモノの処理を見極めるなかに信仰がいかに関わってくるのかについて追究する。またこれに関連して、宗教の領域における物質と精神をめぐる議論、二項対立的な捉え方に対する問題点などを意識しつつ、物質と聖性の問題について考察を深めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
実施を予定していた現地調査が、研究代表者の病気治療および本務の行事との関係により、期間内に実施が困難となったため。予定していた調査については実施時期を翌年度後半以降に延期し、再度現地機関と調整をすすめる。
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