研究課題/領域番号 |
17K13595
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
相島 葉月 国立民族学博物館, グローバル現象研究部, 准教授 (40622171)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 身体 / 社会階層 / エジプト / 都市 / 教養 / 美的感覚 / 新自由主義 / 空手道 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、現代中東におけるグローバル化の広がりと民衆的ナショナリズムの興隆の接点を、エジプトの空手家コミュニティに関する民族誌的調査より考察することにある。日常生活におけるナショナリズムの展開やナショナルな境界の揺らぎを、空手教室での参与観察を通じて分析する。ネイションを束ねる指標の一つであるスポーツ実践に着目することで、個人の主体性と社会の関係性の解明を目指している。 8月30日から9月1日まで那覇市に滞在し、空手道場や沖縄空手会館を訪問し、聞き取り調査を実施した。空手の発祥地オキナワを目指して海外から訪れる外国人空手家も、沖縄の空手家も、同じ芸道を志す者同士でありながら、異文化の人として出会う様子が伺えた。 10月22日から11月21日までカイロにて隣地調査を実施した。平成30年2月にエジプトを訪れた際に、エジプト伝統空手道協会の会長が死去し、葬儀に立ち会ったため、協会組織の再編成が空手家コミュニティに与えた影響が気になっていた。亡き会長は「ライフスタイルとしての空手道」をスローガンとして掲げ、成人であっても道着を着用し、稽古を継続することの重要性を弟子たちに説いた。子供向けのクラスは順調に生徒数を伸ばし、盛況な雰囲気であるのに対し、中高生や成人向けのクラスは閑散としていた。国内外から空手の指導者を招いた、特別講習会が頻繁に開催されていることから、日常的な稽古に力が入ってないような印象を受けた。講習会の企画者は、カリスマ的な会長が亡き後、新しいリーダーを中心に、協会組織をまとめるようにつとめていた。選手層は、他のアラブ諸国からの空手指導者との交流よりも、言葉が通じるエジプト人の指導者との日常的な稽古を欲しているように見えた。いずれにしろ「ライフスタイルとしての空手道」から、再び、試合中心の稽古に戻りつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・グローバル化と新自由主義と関連したスポーツ社会学の先行研究レビューについては順調に進展している。新自由主義的な政策にあえぐエジプトの都市中流層の「ポスト・スポーツ」として空手道を捉えることができるか否かを検討していきたい。 ・エジプトにおける臨地調査はやや遅れ気味である。調査地として選定していたスポーツクラブの成人向けのクラスがほぼ消滅しつつあるため、参与観察を実施するのが非常に困難な状況にある。小学生以下の子供が圧倒的に多いことから、経済的な利潤が低い大人のクラスを開講する意義が見出だせないのであろう。来年度は新しい調査地を開拓したい。 ・研究成果の発信については、関連文献の収集と先行研究レビューに集中したため、やや遅れ気味である。研究発表の際にフィードバックを得たことで、方法論的な枠組みが定まりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
・一年間かけてアラビア語文献のデータベースを購入するための交渉を続けた結果、年度末に契約を結ぶことができた。今後は、本データベースを利用して、エジプトメディアによる空手道に関する報道の収集と分析を行いたい。 ・エジプトの首都カイロに6週間滞在し、空手家コミュニティに関する臨地調査と文献収集を実施する。 ・今年度までの研究成果をまとめて投稿論文として仕上げる。 ・イギリスのマンチェスターに4週間滞在し、空手教室における参与観察とアラブ人空手家への聞き取り調査を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、本務校で通年の講義を担当したため、予定していたよりも調査期間を短縮する必要があった。
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