研究課題/領域番号 |
17K13595
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
相島 葉月 国立民族学博物館, グローバル現象研究部, 准教授 (40622171)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 身体 / 社会階層 / エジプト / 都市 / 美的感覚 / 新自由主義 / 教養 / 空手道 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、ネイションを束ねる指標の一つとしてスポーツ実践に着目し、現代中東におけるグローバル化の潮流とナショナルな境界の接点を、エジプトの空手家コミュニティに関する民族誌的調査を通じて探求する。日常生活の中でナショナリズムが実践される様相を把握するために、空手道の稽古や競技会における参与観察や、メディアやSNSのコンテンツ分析を実施する。選手やコーチと言った空手道に関わる人々が、どのように個としての欲求と、社会の期待との折り合いをつけているのかを、隣地調査とデジタル素材を組み合わせたマルチサイテット・エスノグラフィーによって描き出すことを目指している。 11月1日から12月2日まで首都カイロに滞在し、エジプト人空手家コミュニティに関する臨地調査をおこなった。エジプト伝統空手道協会(ETKF)に所属する空手家が運営する空手教室や競技会を訪問した際に、指導者や選手への聞き取り調査を実施した。今回の調査の主たる関心事は、ETKFを2011年に創設した協会会長が2018年2月に死去して以降、空手家コミュニティがどのように再編成されていくのか考察することにあった。エジプトでは1980年代に空手道が子供のお稽古事として流行して以来、昇級試験や試合に偏重した稽古が主流となった。空手道の競技人口の大多数は小学生以下の子供で、試合に参加しなくなった空手家は、道着の着用をやめ、後進の指導に専念する。亡き会長は、エジプトの空手道が「過度にスポーツ化している」と批判し、「ライフスタイルとしての空手道」をスローガンとして掲げた。成人であっても道着を着用し、稽古を継続することの重要性を弟子たちに説いた。今回の調査では、指導者ごとの教育方針と稽古スタイルの違いについて参与観察を行った。また、農村で開催された特別講習会に同行し、エジプトの都市と農村の空手家コミュニティの比較分析をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・グローバル化の潮流とナショナルな境界の関係性の考察については、順調に進展している。グローバルスポーツとして変容した空手道が、エジプトのローカルな文脈において再定義される様相を論述するに際し、手掛かりとなる理論的枠組みを求めて、グローバルな知の還流に関する社会理論やグローバル・ヒストリーの先行研究レビューをおこなった。 ・エジプトにおける隣地調査は、順調に進展している。政情不安が続くことから、滞在期間を4週間に短縮しているものの、今年度は参与観察の機会が例年よりも多く得られた。また、Facebookやアラビア語新聞データベースAskZadといったインターネット上のツールを活用することで、エジプト国外にいる際も、空手家コミュニティとの交流を保持することができている。また、ETKFの前会長が亡くなって以来、成人向けの稽古が減少し、参与観察の機会が限られていることから、他の競技についても検討している。 ・研究成果の発信については、やや遅れ気味である。今年度は、複数の招待講演の機会に恵まれ、中東の空手道実践についての関心の高さが伺えた。また、論文集や一般向けの出版物のための原稿を執筆することで、都市中流層のナショナリズムとモダニティについては、論点が整理されてきた。
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今後の研究の推進方策 |
・過去3年間の調査を踏まえ、先行研究レビューやフィールドノートを見直しを通じて、グローバル化の広がりと国民的ナショナリズムの興隆の関係性について解明する。新型コロナウイルスが世界中で流行していることから、東京オリンピックが延期され、エジプトへの渡航も難しい状況にある。本年度はAskZadやFacebookなどに掲載されたオンライン上の素材を分析したり、SNSを通じてエジプトの人々と連絡を取り合ったりしながら、研究を進めていきたい。 ・昨年度までに行った研究発表のために準備した素材を、論文として仕上げる。 ・研究成果を単著としてまとめるために、書籍の企画書を作成し、大学出版社に提出する。
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次年度使用額が生じた理由 |
エジプトで政情不安が続くため、当初は六週間行うことを予定していた隣地調査を四週間に短縮したため。
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