本年度は最終年度であるため、本研究全体の総括と発信作業を行った。 第1三半期(4月-7月)には昨年度に提示した差別論と平等論の統合仮説の補正作業を行った。同期間内にはIVRルツェルン世界大会に出張し、統計的差別(ある集団の傾向性を理由にその集団に属する全員を不利に扱う実践)について個人としての尊重の観点から考察する内容の報告をし、そこでの討議や意見交換で得た知見をも補正作業に反映させた。関係的平等論は差別の道徳的な不正性の根拠を、被差別者に対して侮蔑的な態度を表明してしまう点に求める立場と親和的であることが確認されたが、そうした侮蔑的な態度の表明が個人としての尊重の要請とどう関係するかについて、重要な視点を得ることができた。 第2三半期(8月-11月)には次なる研究課題の発展方向を模索する意味で、本研究の知見が憲法学の法の下の平等解釈や、主として私人による差別行為を対象とする差別禁止法への規範的含意についての論点抽出作業を行った。かかる作業に当たっては関連文献の精読に加え、本研究者が所属する北海道大学の公法研究会や法理論研究会に出席して異分野の法学研究者との意見交換を行った。 第3三半期(12月-3月)には、北海道大学法学会での研究会(法理論研究会と政治研究会との共催)において、昨年度本研究者が刊行した単著『関係の対等性と平等』の内容および現代平等論における最前線の課題についての報告を行い、討議や意見交換で新たな知見や視点を得た。また、①「差別の規範理論の内在的検討」と、②「関係的平等論との規範的統合」という2つの基本課題の遂行を通しての本研究成果としての単著・学術論文の概要及び目録をresearchmap上で公表し、発信した。
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