研究課題/領域番号 |
17K13599
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
板持 研吾 神戸大学, 法学研究科, 准教授 (20632227)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 住宅 / 英米法 / 物権法 / 法人法 / 地方自治法 / 都市法 / アメリカ法 / イギリス法 |
研究実績の概要 |
2019年度には、本務校の若手研究者海外派遣制度を利用し、英国での在外研究に従事した。1月までをケンブリッジ大学、2月からはオックスフォード大学で、客員研究員の身分で滞在した。 英国での在外研究という情況を活用し、英国法に関する部分について研究を進めた。広く住宅コミュニティ法の理解の前提となる土地法および(地方自治を含む)憲法・行政法についての総合的な資料収集・分析を行うとともに、関連分野の専門家との意見交換を重ねた。 中でも具体的な検討として、第一に、土地の信託にかかる規律を対象とした。住宅コミュニティ法制においても重要な土地の共同所有の規律を把握する必要があるところ、英国法において土地の共同所有には信託が法律上必要的に用いられるため、その綿密な理解が欠かせないからである。受託者による権利の移転に伴って信託財産上の受益権を消滅させる(売買代金に物上代位させる)overreachingの法理が重要と考え、日本法との比較検討を加え、8月に英語での報告を行った。 第二に、リースホールドおよびコモンホールドにかかる規律を対象とした。リースホールドは集合住宅のために実際に用いられる住人の保有形式であり、コモンホールドはリースホールドの問題点を解消するため法改正によって導入された新たな保有形式である。不動産業界の思惑も絡んでコモンホールドの利用は広がらず、リースホールドに関する規律が現在でも実際上中心を占めている。日本やアメリカと比べてもはるかに複雑であり、これを解きほぐす作業は2020年度に持ち越された。 またイギリス法研究の進展と並行して、研究協力者の協力も得て、アメリカの団体法(特に会社法)に関連する業績をいくつか公表した。2018年度中に準備を終えていたものが2019年度中に公表されたというものが多い。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2018年度までに、アメリカ法に関する研究成果の公表が予定より遅れていた一方、イギリス法に関する研究が予定以上に進み、トータルにはおおむね順調に進展している情況であった。 2019年度には、遅れていたアメリカ法に関する研究成果の公表を一部実現できた。また、イギリスでの在外研究を許されたことも奏功し、イギリス法に関する研究が大きく進展した。そのうち特に、文献の収集・検討および大学内での専門家との意見交換に関して進捗が大きかった。住宅コミュニティや登記所等へのフィールド・ワークは2019年度末から2020年度前半に本格化させるべく準備を進めていた。それゆえ、1月頃まではおおむね順調に進展していたと言える情況にあった。 しかし特に2月以降、新型コロナウイルスの世界的流行の問題から、イギリスでも3月初頭には外出自粛要請が行われ、中下旬にはロックダウンが開始された。その結果、フィールド・ワークの予定は全て白紙に戻り、今後も再開の目処が一切立たない。本研究計画への悪影響は甚大で、トータルに見て、2019年度終わりの時点で既に「やや遅れている」と評価せざるを得ない。
|
今後の研究の推進方策 |
2020年1月頃までの時点で、本研究の最終年度である2020年度にはフィールド・ワーク(特にイギリス)を中心に研究活動を行い、成果をまとめて研究計画全体の公表に入る予定であった。2021年2月までイギリスでの在外研究も認められていたので、イギリスでの学会報告等も準備を進めていた。 しかし新型コロナウイルス問題が全てを変えた。特に①イギリスでの在外研究はひとまず継続させてもらえそうであるが、いつ帰国命令が出てもおかしくなく、また自身や家族の生命健康に鑑みて途中帰国する判断もありうる。②イギリス滞在が継続できたとしてもフィールド・ワークや学会・研究会への参加は不可能である(全てキャンセルされているので)。③帰国するかに拘らず、日本でのフィールド・ワークも実質的に不可能であると見込まれる。④アメリカへはそもそも入国が難しく、フィールド・ワークは実際上不可能である、といった諸事情から、当初の研究計画通りに遂行することはもはや不可能である。 そこで、当初の研究計画を変更することになるが、本研究は文献を中心とした研究のみで公表に向かうこととし、2020年度にはそのための準備、資料の再検討、まとめを行う。公表媒体ももはや論文として発表することしか現実的でないため、しばらくは学会報告等を最初から念頭に置かない。上記①にかかる事情からも、不確実である情況はそれ自体事務作業時間を余分に生じ、研究計画にも悪影響を及ぼすことが既に経験上明らかになっているため、なるべくそうした不確実性を排除する目的からである。もちろん事態が安定した暁には、学会報告等も再度検討し、広く研究成果の公表に努めていきたい。 (なお、以上につき2020年4月6日入力。同22日に改訂。)
|
次年度使用額が生じた理由 |
2019年度はその全期間をイギリスでの在外研究として過ごした。その際、滞在費の大半は他の財源から支出したことと、本研究課題のためのフィールド・ワークは実施前であったことから、旅費および聞き取り調査謝金などに使用する機会がなかった。 2020年度は本研究課題の研究に特に注力するため旅費としての使用を見込み、かつ事態が好転してフィールド・ワークが可能となった場合には、聞き取り調査を行って謝金等も発生する予定である。 要するに、研究計画の柔軟な組み換えの結果、2019年度に使用する予定だった研究費の大半を2020年度にまとめることとなった、ということである。
|