研究課題/領域番号 |
17K13601
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
西迫 大祐 明治大学, 法学部, 助教 (10712317)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 公衆衛生 / 自由 / 感染症 / 社会史 / イギリス史 / 予防接種 |
研究実績の概要 |
本研究は、19世紀イギリスの感染症の予防を題材として、公衆衛生と自由を両立させることが可能な思想的基盤を探求することが目的である。平成30年度は、前年度に行った研究のうち、チャドウィックの初期論文の分析についての論文を公表した。また研究計画を変更して、次年度予定の予防接種にまつわる議論、特に反ワクチン運動についての研究を行い、学会発表と、そこでのコメントを参考に、論文を公表した。 現在、反ワクチン運動は時代遅れの、科学を無視した運動であるとの主張がなされる。しかし、ダーバックの研究によれば、少なくとも19世紀のイギリスでは、自己統治のひとつの現れとして反予防接種運動が展開されていた。当時、イギリスの労働者たちは、相互扶助組織に代表されるように、自分たちの金銭や労働の管理を自分たちの助け合いで行うことを誇りとしていた。こうした世界観のなかで、労働者たちは、医学もまた、身体を自らの力で治療できる方法を教える代替医療が優れていると判断していた。逆に、医師による治療を本質とする近代医療は、自己統治の世界観にそぐわなかったし、予防接種は強制を本質とするため、とくに労働者たちから反対の声があがっていた。 一方、予防接種の法律化は1840年にはじまり、しだいにその強制力を強めていった。その根拠にあるのは、低い接種率と、ときおり起こる天然痘の流行であった。予防接種法には、罰則が設けられており、罰金を払えない場合には、刑務所に入所させられることがあったが、この場合には他の刑事犯と同様に扱われていた。ところで、接種率が低く、また刑罰を課されたのは主に貧困階級の労働者たちであった。フーコーが指摘するように、この時代の予防接種は貧者をコントロールすることにあったが、まさにこの点にこそ予防接種に反対する要点があった、つまり自己統治への侵害と捉えられていたのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
主たる資料の分析はおおむね順調に進んでいる。しかしながら、前年度に行ったチャドウィックの分析についての論文の執筆および公表が遅れている。最終年度に公表していきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、1)感染症予防法、公衆衛生法などの法整備の周辺で巻き起こった議論と反発、2)コレラや結核に代表される具体的な感染症の予防とその反発の二点について資料を精読・分析していく。どちらの研究も議会の議事録、法学雑誌、新聞、その他の著作などの当時の資料を分析していく。 当時の議事録や新聞については、NII-REOやPROQUESTのようなインターネット・サービスを活用しながら、研究を進めていく。また2)については歴史学分野においてコレラや結核などの感染症の社会史分析は盛んに行われており、昨年度から収集、および分析を進めている。これらを活用することで研究を進めながら、国内で可能な限り研究を進めておき、渡英し研究する際に必要な部分を可能な限り少なくしておく。 研究の成果は、積極的に口頭発表を行い、研究を練り上げた上で学術論文として発表していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、研究の順番を変更したために、購入を計画していた図書にも年度の変更が起きたためである。これらの図書は次年度に購入することを計画している。
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