研究課題/領域番号 |
17K13603
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田中 啓之 北海道大学, 大学院法学研究科, 准教授 (60580397)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 租税法 / 公益法人 / 財団 / 公共の福祉 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、前期まで、ドイツ学術交流協会(DAAD)による助成を得て、ボン大学租税法研究所で在外研究に従事し、ドイツにおける公益税制の第一人者であるライナー・ヒュッテマン教授の指導を受けるとともに、同大学ヨーゼフ・イーゼンゼー名誉教授とも議論の機会を重ねた。 帰国後は、まず、金子宏先生米寿記念論文集のために、「財団と課税」という論文を寄稿した。これは、平成18年以降、我が国で、従来の公益財団法人に加えて、一般財団法人という制度が広範に利用されている現状を踏まえて、比較法を通して得られる分析軸により、財団税制のほか、その前提となる財団法制についても概括的な検討を加えたものである。また、特定非営利活動(NPO)法人における収益事業該当性という、公益税制の中心的な課題のひとつについても、法務省における租税判例研究会での報告を経て、判例評釈を公表した(ジュリスト1519号130頁)。 他方、租税法における公益と公共の福祉という両概念の関係については、まず、公共の福祉という概念は、戦後の一時期を除いて、概ね憲法訴訟論という文脈においてのみ議論されており、その理論史的な意義に係る研究の蓄積が不十分であること、にもかかわらず、例えば自由民主党憲法改正草案では、同概念を「公益及び公の秩序」という異なる概念に置き換えるという計画があり、キケロ以来の理論史的な基礎とそれに基づく批判を欠いたまま、改憲議論が進められているという政治的現実があることを踏まえて、同概念に係るドイツでの標準的な議論を翻訳という形で早急に紹介する必要があるという判断に至った。そこで、その代表的な論者であるイーゼンゼー教授の許諾を経て、共訳という形で、『国家・公共の福祉・基本権』という編訳書を弘文堂から出版することとなり、そのための予備的会合もすでに実施した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、もともとドイツでの在外研究を継続する予定であったが、諸般の事情により、それを前期のみで切り上げた結果として、編訳書の出版については、当初の計画を前倒しする形で作業が進んでおり、その解説の執筆に向けて、ドイツ公共の福祉論に係る学説史的研究も着実に進んでいる。 他方、編訳書以外の計画については、本研究とは直接の関係がない国内外の執筆依頼を受けたため、必ずしも順調に進捗していない。特にドイツにおける法人格と公益性の関係、ヨーロッパ財団という構想とそこにおける公益性の意義などについては、文献蒐集の段階に止まっている。 そのため、全体的な達成度としては、上記の区分に止まる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、まず、編訳書の年度内の出版を最優先し、そのための作業として、共訳者間における複数回の会合を予定している。共訳者の作業の進捗状況にも左右されるが、少なくとも8月には、札幌で長期間の会合を予定している。他方、公益概念については、ドイツで蒐集した文献を利用して、日本での作業を進める予定である。文献に不足がある場合、ドイツで築いた学術的なネットワークを利用して、ボン大学、テュービンゲン大学、ブチェリウス大学などを再訪する可能性もある。
|