本研究は、法令の経過規定に関して、基礎理論の研究、および立法指針となるであろう基準の実践的な研究を行った。 第一に、日本法を中心に、主に附則に置かれる経過規定を整理・分類することを通じて、法令の経過規定の実務上の立法指針の研究を行った。昨今の重要・特徴的な法改正や、各行政分野での主要な法令に対象をしぼり、そこでの経過規定の整理・分析を行った。成果としては、論文「昨今における法令の経過規定をめぐる諸問題」において分析結果の端緒を示したほか、特に遡及効を認める経過規定については、「遡及立法における経過規定の解釈問題」において裁判例の総合的分析を行った。 第二に、フランス法の学説を対象として、経過規定の問題の基礎理論の研究を行った。すなわち、フランス法の時際法論の研究である。その成果は、論文「「時際法論の体系」において公表した。日本における従来の学説・判例では、遡及効の問題が中心に論じられてきたが、法令が既存の事実について将来的に効力を及ぼすものを即時効として位置づけ、また、旧法上の取扱いを新法の施行後においても維持することを旧法存続として位置づけ、それぞれについて遡及効とは異なる法理が妥当しうることを明らかにした。 第三に、上記の理論モデルに沿って、日本の裁判例を整理することを試みた。この点に関しては、論文「時際法の判例(平成27年から平成29年)」を公表した。日本法の法令の経過規定の分析についても、建築基準法など幾つかの法律を取り上げて、改正時の経過規定を網羅的に整理・分析することを行った。現在、論文執筆中であり、近く公表をする予定である。 第四に、フランス法の理論モデルを参照しながら、法令の時間的適用範囲に関する分析・検討枠組みの構築を試みた。すなわち、「行政法の時に関する効力」の総合的な分析を行った。この点に関する論文は執筆済みであり、近く公表をする予定である。
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