グローバル化やデジタル化が進展する中で変容する議会の機能に着目して、新時代における法律の留保論の展望を探究したのが本研究である。 まず、主権国家の黄昏ともいわれるグローバル化との関係においては、従来の主権国家を前提とした、国内公法及国際公法のありようを根本的に見直し、国内・国際双方を包括するような公法概念の構築を目指し、海外での資料調査、海外研究者との交流を進めてきた。問題状況の整理や将来的な公法学の展望を提示する論稿をいくつか発表してきたが、2019年度は、各論に立ち戻って、オーストリアにおける多元的な法秩序相互の調整の実務的処理についてまとめた論稿を公表した。これについては、従来国際法秩序を優先させているというイメージ先行で語られてきたオーストリア法秩序の実態を紹介・検討するものとなり、一定の評価を得ることができた。 次に、デジタル化との関係を中心とした、刑事手続における法律の留保について、本研究の助成期間は、ドイツ法との比較法を中心に進めてきた。その中で、法律の留保論だけではなく、法律の優位論も含めて考えることの重要性、また両者の相対化などを再確認するとともに、こういった先進分野における、法律により統制になお意義はあるものの、限界や課題も大きいことが明らかになってきた。2019年度は、このような問題意識を踏まえながら、具体的な日本の判例を、初学者にもわかりやすく紹介する論稿のほか、ドイツの基本権解釈、基本権制限の統制の基礎枠組を再検討することで、法律の留保や法律の優位といった原則が持つ意味をあぶり出す論稿を公表し、基本権解釈や制限統制自体の限界についても、示唆することができた。
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