最終年度は、わが国に生活の拠点をおく在留外国人の宗教選択・実践における諸問題について、いわゆるコロナ禍を経て、どのように表出しているかについて、文献的な調査・検討を行った。それとともに、移住者の宗教的実践のサンプル例について、別の分担研究チーム(JSPS科研費(課題番号:16K13336))において行った調査において、ヒアリングを追加実施し、移住者の送出国の各国の地域性・宗教法制との観点の齟齬を含めて、知見を得ることができた。 本研究では、移住者の増加によって新たに変容する社会、多文化共生社会において、一定の影響力を有する信仰に伴う宗教実践を取り上げてきた。(1)身分による入国が多い日本にあって、アジア近隣諸国からの移住を念頭におくことで、信教の自由と多文化共生社会のありように関して考察を同時に加えること、(2)人の移動と多様な宗教実践の調和という観点から、公共空間における信教の自由とその規制に関して考察すること、(3)宗教を基盤とする共同体とその法規制について比較を加えることを軸として、移住者とわが国の信教の自由に関する比較研究を提供することで、理論的貢献を果たしたいと考えたものである。実際は、調査について十分な質と量を伴った調査が十分に行えず、研究期間も数度延長することとなったが、憲法上の信教の自由(宗教的行為の自由)に関する文献上得られる知識と、諸外国における現実の移民政策とは合致しない面も見受けられ、あるべき法政策・法制度に至る正解筋を提示することは難しい。それでも、多様な宗教が併存する社会における信教の自由という原理に沿って、多様な宗教の両立・そのための配慮を新たな移住者の側にも社会の側にも求めてしかるべきである。そして、かかる憲法原理への尊重という基礎の上に、積極的に法制度を整えることの意義・重要性について、改めて本研究を通じて明確な意識をもった次第である。
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